無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中





「ただいま~。コンビニ行ってきた」


放課後、明日の文化祭準備を大方済ませて教室でギターのチューニングをしていると、口のなかに肉まんが入ってきた。


確かに両手は塞がってるけど、退院してからサトはちょっと過干渉気味になった。


でも隣のじゅんにもシンタにも同じようにピザまんとあんまんを食わせてたから俺だけに気を遣ってるわけでもないか。


「おまえ入院中寝てる俺の鼻先にキムチ乗せたんだってな。母親いるのに堂々と」


作業をやめて肉まんを頬張る。
退院してから体重がすぐに戻ったのは親鳥みたいなこいつのせい。


「そうそう、五感を刺激するといいらしいってチャッピーにアドバイスもらって真顔でやってんのよこいつ」


じゅんは思い出し笑いのせいでこぼしたコーラを丸めたチラシで拭きながら、シンタにコーラを預けた。


「安心しろ、熱々はんぺんとビリビリペンは俺がやめさせたから」


みんなでゲラゲラ笑っている隙にシンタがコーラを飲み干したからじゅんがキレて、今度はプチ喧嘩が始まった。


長く昏睡してたらしいけど、こうしてると昨日の続きみたいだ。
自分では寝すぎてちょっと具合悪いな、くらいの感覚。実感するのは日が暮れるのが早くなってだいぶ寒くなったな、って程度だ。


病院には定期的に通うことになるけど、今のところなんの不便もない。
入院してるときのこともこいつらからいっぱい聞いたし、階段から三人いっぺんに落ちたことも覚えている。


美姫と沙也可が元気でほんとうによかった。
でも、腑に落ちないことも、すっきりとしない点もいろいろとある。


目覚めたのと引き換えに、何か大事なものを失くしたんじゃないか、捨ててしまったんじゃないかっていう、妙な不安がいつも胸のうちに渦巻いていた。