無自覚系お姫様は溺れるほどに愛され中

すっかり忘れていたのになぜだろう。
記憶の片隅にもなかったはずなのに、やっと会えたことに今すごく安堵してる。


嬉しくて、彼の安らかな寝顔にしばらく見入ってしまうくらいに。


『ねぇあなた璃央君でしょう? 絶対そうだ』


返事は返ってこない。耳を澄ますと微かな寝息が聞こえた。
 

『……疲れてるの?』


我ながらまぬけな質問だ。
だけどまるでお人形さんみたいになんにも応えてくれない。
ここは深淵なのか浅瀬なのか。
ほんとに不思議な世界。


お花が静かに水を吸い上げるときのような、絶え間のない穏やかなリズムで彼は呼吸した。


『起きなきゃダメだよ、絶対だよ』


眠る彼の耳元でそっと呟いた。
返事が欲しくて、手を握る。
指先はピンク色に染まっているのに、氷みたいに冷たいの。


『また会おう。約束だよ? 今度は夢なんかじゃなくてもっと大きくなって、それで再会を喜んで、サイダーで乾杯しよう? あの時はお互い可愛かったねって笑いあって、あったかいねって、一緒に手を繋ぐの』


私は今寝言を言ってるのかも。
夢の中にしては胸がいたいほどに切実だ。


『私はそれを伝えるためにここにいるの。璃央君はそれを受けとるためにここに来たはずなの。ねぇ、ちゃんと聞こえてる?』


こんなに強く訴えても返事は返ってこない。
寝息すらもう聞こえない。


『聞こえないふりしても、寝たふりしてもムダだから。何度でも名前呼ぶから!』


次第に色をなくしていく彼の指先を暖めようとその手を強く握り返した。


『もっと話をしようよ。君のことが知りたいの』


腕を伸ばして彼の手首を掴んだ。
その呼吸を止めないで。
また君の笑顔に会いたい。