女神イリオネスのバイオリン

 イリオネスは背中のバイオリンを取り出しました。

 彼女が弓を弦に当てると、静かに流れる『日差しのメロディー』を奏でました。

 彼女の正確に、ミスのない魔法のメロディーに、雨雲は追い払われ、丘には黄金色の暖かな日差しが降り注ぎました。

 それを見た家族は、いっせいに顔を上げ、眩しそうに微笑みました。
 すると、腰をさすっていたおじいさんが、ふんっと気合を入れて立ち上がろうとしました。

「よし、もうひと踏ん張りだ。このお日様があれば、陽が落ちる頃には終わるぞ!」

 おじいさんの声に、息子夫婦がその肩をそっと支えました。
 息子の嫁はそんな父親に、心配そうに言葉をかけます。

「無理は禁物ですよ、お父さん」

「ははは、このお日様と、お前たちの顔を見ていれば疲れなんて吹き飛ぶわい」

 どんよりしていた家族の間に、パッと活気が戻りました。
 それを空から見ていたイリオネスは、不可解そうに眼鏡を指で押し上げました。

「……理解不能です。私はただ、雲をどかして日差しを与えただけなのに、なぜ彼らの動作は軽やかになったのでしょう」

 イリオネスは首をかしげます。