女神イリオネスのバイオリン

 翌日から、天界にはこれまでに聞いたこともない、バイオリンの音色が響き渡っていました。

 その旋律は、時にリズムが崩れ、音が外れ、けれど楽しげな笑い声やハミングが重なり合う……名付ければ、それは『幸せの共鳴(レゾナンス)』。

 かつて無機質な人形のようだったイリオネスは、眼鏡を外し、見たこともない柔らかな笑顔を浮かべていました。

 リズムを刻むように軽やかに体を揺らし、心のままに音を紡いでいきます。

 アフディーもまた、花が咲き乱れる雲の上に足を投げ出して座り、その幸せな響きを全身で受け止めていました。

『情熱的な青い鳥』が喉を震わせて歌い、『食いしん坊のうさぎ』は喜びのあまり野原を転げ回ります。

 傍らでは、あの日アフディーが拾い上げたカタツムリが、じっとその光景を見つめていました。

 イリオネスが「別れを告げた」もの——それは、孤独という名の完璧な静寂だったのかもしれません。

 家族とは、一人では決して奏でることのできない、不器用で愛おしい「協奏曲(コンチェルト)」なのですから。