女神イリオネスのバイオリン

「……これからは、あんまり悪戯もしないようにするから」

 口調こそ「です・ます」ではないものの、その内容はかつてないほど殊勝なもの。

 しかしゼオスは(……内容はあまり改善されておらんようだが)と内心で毒づきながらも、娘のあまりのしおらしさに毒気を抜かれてしまいました。

「う、うむ。……これからは、気をつけてくれよ。……本当にな」

 たどたどしく答えるゼオス。  
 庭先から漏れ聞こえる、ゼオスとアフディーの不器用な親子の対話。

 それを壁越しに聞きながら、ヘローラは目の前に片膝を着くイリオネスへ、慈愛に満ちた静かな微笑を向けていました。

「ご苦労様でした、イリオネス。あの子もあなたと行動を共にして、少しは素直になったようです。礼を言いますよ」

「……いえ。私は、何も」

 イリオネスは、隣の部屋から聞こえる「パパ」と呼ぶ声に、わずかに表情を歪めました。

 それは嫉妬ではなく、自分の中にある「欠落」への鋭い痛みでした。