女神イリオネスのバイオリン

 神殿の重厚な門をくぐると、二人はそれぞれの「報告」へと向かいました。

 アフディーはゼオスの元へ、イリオネスはヘローラの待つ居室へ。
 庭園では、ゼオスが月明かりの下で手入れの行き届いた盆栽を眺めていました。

 そこへ、アフディーが音もなく近づき、消え入りそうな声で呼びかけました。

「パパ……あのね」

 振り返ったゼオスは、目を丸くしました。

 そこにいたのは、いつもの奔放な娘ではなく、今にも泣き出しそうなほど「しょぼくれた」アフディーの姿だったからです。

「なんじゃ、どうしたアフディー。また何か仕でかしたのか?」

 アフディーは指先をいじりながら、もじもじと言いにくそうに言葉を絞り出しました。

「……パパが大事にしてる盆栽に、ひどい悪戯をして。……ごめんなさい」

 ゼオスの背筋に、冷たい戦慄が走りました。
 耳を疑うような「娘の謝罪」。

(……これは、新しいタイプの高度な悪戯か? 謝ると見せかけて、実は裏でとんでもない罠を仕掛けているのでは……)

 あまりの異常事態に、全能の神は思わず身構え、周囲を警戒してしまいます。