女神イリオネスのバイオリン

 その表情からは、言葉にできないほどの『幸せ』がこぼれ落ちています。

 微笑ましい光景に目を細める二人でしたが、ふと外で囁き合う母子の会話に耳を奪われました。

「……それで、どうだい。野菜や果物は手に入ったのかい?」

 青年は困惑した表情で、力なく首を振りました。

「それが……どこを探しても手に入らなかったんだ。あったとしても、今の僕たちには手が出せないほど高値で……」

「そうかい。でも、あの子にしっかり食べさせてあげないと、赤ちゃんにいいお乳を飲ませてあげられないだろうしねぇ……」

 不憫そうに部屋の中を見つめる母子の背中。それを聞いた空の上の二人は、示し合わせたように小さく口角を上げました。

「私たちの『悪戯』に付き合ってくれたお礼をしても、バチは当たらないわよね?」

「そうですね。……これは、私たちの『報酬』です」

 イリオネスは黄金の羽を大きく広げ、バイオリンを構えます。

 響き渡ったのは、夜の帳を優しく撫でるような『安らぎの小夜曲(セレナーデ)』。

 それに合わせ、アフディーが元気よく、けれどどこか誇らしげに呪文を唱えました。

「ウホマイシラバスハレコ!」