女神イリオネスのバイオリン

 ただ、イリオネスの奏でた旋律。その魂を震わせる表現力に、激しく心を揺さぶられていたのです。

「凄い……凄いよ、イリオネス。私、本当に感動しちゃった」

 アフディーに勢いよく両手を握りしめられ、イリオネスはその掌から伝わる確かな温もりを強く意識しました。

 満面の笑顔。飾らない、むき出しの言葉。

(……これが、『友達』というものだろうか)

 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎりましたが、すぐにヘローラから託された『姉妹』という言葉を思い出します。

 家族という概念を持たないイリオネスにとって、その温もりはあまりに眩しく、けれどどう扱っていいのか分からない、複雑で、少なからず恐ろしいものでした。

 戸惑いを隠すように、イリオネスはふいと顔を逸らし、俯き加減で言葉を絞り出します。

「……ですが、下界の男女には。この曲も、目に見えるほどの『効果』はありませんでしたね」

 照れ隠しのような、自分を律するようなその声に、二人は再び、遠い雲の下で荷車を引く男女へと視線を落としました。

 地上の二人は、ようやく慎ましい自分たちの住まいへと辿り着いたようでした。

 荷車を止めると、手際よく荷物を解き、家の中へと運び入れ始めます。