女神イリオネスのバイオリン

「イエスッ!  決まったわ」

 しかし、地上の二人はすぐに我に返ったように、平然と離れて言葉を交わし始めます。

「さあ、木陰に座って。お水で喉を潤そうか」 「ええ、そうしましょう」

 あまりに淡々とした二人の様子に、アフディーは「あぁっ、もう! 惜しいわね!」と、地団駄を踏んで悔しがりました。

 イリオネスには、目の前で繰り広げられているドタバタ劇の目的が、さっぱり理解できませんでした。

 二人が木陰に腰を下ろし、くつろぎ始めたのを見ると、アフディーは「次こそは!」と言わんばかりに、袖もない服の腕をまくり上げる仕草を見せ、再び気合を注入します。

「ウホマイシラバスハレコ!」

 呪文と共に、今度は一本の糸を伝って、女性の目の前に一匹のミノムシがするすると降りてきました。

「きゃっ!」驚いた女性は、反射的に隣の男性の腕に抱きつきます。

 今度こそ確実な手応えを感じ、勝利を確信したアフディーでしたが——。

 男性は事も無げにミノムシの糸を指で摘むと、近くの草むらへと優しく放り投げ、何事もなかったかのように再び座り直してしまいました。