元トップアイドル、問題児のイケメン達の雑用係になりました

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私たちは今、関係者用の楽屋にいる。

佐藤さんに

『と、とりあえず……中でお話しさせていただいてもよろしいでしょうか』

と、言われ、半ば強引に連れてこられた。

この部屋には、広めのソファに、ガラスのテーブル、壁際にはハンガーラックが並んでいて、いかにも“芸能人の控室”という感じの空間。
…私も何度も使ったことがある場所だ。

「どうぞ、おかけください!」

「はぁ……失礼します」

ソファに腰を下ろすと、どっと疲れが押し寄せてくる。

……今日は本当に、ついてない。

「い、今お茶お持ちします!」

佐藤さんが慌てて部屋を出ていく。残されたのは、私と――

「……あの」

瀬戸千隼。さっきまでの不審者。

……またサングラスとマスクをつけちゃったから、今も見た目はほぼ不審者だけど。

「……何?」

じとっと睨むと、びくっと肩を震わせる。

「その……本当に、ありがとうございました!」

ぺこりと、深く頭を下げられる。

……なんなの、この人。さっきまで泣きそうだったくせに。

「……別に」

そっけなく返す。でも。

「……あんた、ほんとに瀬戸千隼なの?」

思わず聞いてしまった。だって。

「ポンコツすぎでしょ」

「うっ……」

ぐさっと刺さったみたいで、瀬戸さんはわかりやすく落ち込んだ。瀬戸千隼って、なんでもスマートにこなす──みたいなキャラだったと思うんだけど。

「お、俺だって……その……がんばってるんです……」

瀬戸さんは急に小声になって、ぼそぼそそう言う。、

……いや、説得力なさすぎでしょ。

「はい、お待たせしました!」

タイミングよく、佐藤さんが戻ってきた。お茶をテーブルに置きながら、深々と頭を下げる。

「本日は本当に申し訳ありませんでした!」

「いや、もうそれはさっき聞きました」

何回謝るのこの人。

「そ、それでですね……」

佐藤さんは一瞬、言葉を選ぶように黙り込む。そして、覚悟を決めたように顔を上げた。

「本日の件、どうかご内密にお願いできないでしょうか」

「……は?」

思わず眉をひそめる。

「うちの瀬戸は、ご覧の通り……少々、その……」

佐藤さんは口ごもったが意を決したように言う。

「ポンコツで!!」

「言わないでください!!」

瀬戸さんが即座に叫ぶ。

……やっぱりポンコツじゃない。

「イメージとのギャップが激しくてですね……世間に知られると、少々問題が……」

「はぁ」

まあ、言いたいことはわかる。

あの“クール王子様キャラ”がこれじゃ、確かに問題だろう。

「……別に言いふらす気なんてないですよ」

そう言うと、佐藤さんはぱあっと顔を明るくした。

「本当ですか!?」

「ええ。興味ないので」

「ぐっ……!」

なぜか瀬戸さんがダメージを受けている。

「で、その代わりに“なんでもする”とか言うんですよね?」

少し皮肉を込めて言うと、

「は、はい……!」

佐藤さんは勢いよく頷いた。

……めんどくさい。何この漫画展開。

「…いらないです。帰ります」

そう言って立ち上がろうとした、その時。

「──あれ?もう話終わった?」

聞き慣れた、軽い声。

ドアの方を見ると。

そこに立っていたのは──

「……社長」

さっき別れたばかりの男。

桜華プロダクションの社長が、なぜか楽しそう──いや、面白がるようににこちらを見ていた。