元トップアイドル、問題児のイケメン達の雑用係になりました

「スターライトドームまでお願いします」

タクシーに乗り込むと同時に、私は運転手に行き先を告げた。

「了解でーす」

車が走り出す。

「これで大丈夫ね!」

……大丈夫なはずだったのに。

数分後。

「……動かないんですけど」

窓の外には、びっしりと並んだ車の列。完全に、渋滞。

「す、すみませ゛ん……っ」

隣で、例の不審者――もとい男が、今にも泣きそうな声を出す。

「間に合わない゛……っ、待ち合わせ時間まであと30分しか゛……っ」

「は!?」

思わず振り返る。

「ちょっと待って、30分って……スターライトドームがどんだけ遠いとこにあるかわかってたの?」

「わ、わがってます……! でも……っ」

涙目でうるうるしている……気がする。サングラスで顔なんて見えないけど。

……いや、遅れようがなんだろうが知らないわよ。

でも──

「……っ、はぁ」

私は深く息を吐いて、窓の外を見た。

ここからなら――

「……ねえ」

「は、はい゛っ!」

「ここから走れば、ギリ間に合うかもしれない」

「え゛……」

「ただし」

私はドアに手をかける。

「本気で走れば、だけど」

そう言って、料金をさっと支払うと、そのまま外に飛び出した。

「え、えっ、ま、待ってください゛……!」

後ろから慌てた声が追いかけてくる。

「道、わかるんですか!?」

「……わかるわよ」

振り返らずに言う。

「伊達にこの辺で仕事してないの」

風が頬をかすめる。久しぶりだった。こんな風に、何も考えずに全力で走るのは。

「は、はや゛……っ」

後ろで男がなんか言ってる。

「ちょっと、遅い!」

「す、すみません゛」

男は情けない悲鳴をあげる。

……なんなのこいつ。

本当に。

「……っ」

でも。さっきの必死な声が、妙に頭に残った。

――どうしても、行かなきゃいけない。

そう言っていた。

「……はぁ」

私は小さく息を吐いて、少しだけスピードをあげた。

「……絶対間に合わせるから、ついてきなさいよ」

「……っ、は、はい……!」

嬉しそうな声。

……なんでそんなに嬉しそうなのよ。
私、こんなに辛辣に言ってるのに。

……ほんと、意味わかんない。