裏切りの先で、あなたに出会った

「……いいの? 旦那さん、いるのに」




低く抑えた男の声。





続いて聞こえたのは、聞き覚えのある女の声だった。





「……いいの。だって、あの人、全然構ってくれないんだもん。ね、たっくん?」




――たっくん。





その呼び方に、胸の奥がざわつく。






「ダメ? たっくんも、可愛い奥さんいるのに」





くすっと笑う声。





一瞬、呼吸が止まった。





「……優衣にそんなふうに言われたら、断れないな」





「ほんと?」




「ああ。困るくらいだよ」





重なるような気配と、かすかな衣擦れの音。





「……もっと、そばに来て」




「……優衣」




甘く囁く声。




壁一枚隔てただけなのに、やけに近く感じる。





「……たっくん」







その一言が、決定的だった。






足が動かない。




胸の奥で、何かが静かに崩れていく。




――聞き間違いであってほしい。






そう願いながらも、耳を塞ぐことができなかった。