「本音を隠していた子 — だいじょうぶと、言えるように —」

教室の前で、飛羽は立ち止まった。
中から、たくさんの声が聞こえる。
笑い声、話し声、椅子の音。
少しだけ、胸がぎゅっとなる。
ドアに手をかけて、少しだけ迷う。

けれど――

ゆっくりと、その扉を開けた。
一瞬だけ、空気が止まったような気がした。
何人かの子が、飛羽の方を見る。
教室の中は、知らない顔ばかりだった。

……そう思った、その時。

「飛羽!」

聞き慣れた声がした。
振り向くと、由奈と蓮がいた。

「おはよ!」

当たり前のように笑う二人に、

「……おはよう」

さっきより、少しだけ声が出た。
まったく知らない人だけじゃない。
このクラスには、由奈と蓮もいる。
それだけで、少しだけ安心した。

「飛羽、こっち」

蓮が手を軽くあげる。

「飛羽の席、ここだよ」

教室の中を歩いていく。
たくさんの視線を感じる。
少しだけ、緊張する。
それでも、さっきよりは怖くなかった。
席の前で、少しだけ立ち止まる。

「……ありがとう」

小さく、でもちゃんと声に出した。
前なら、言えなかったかもしれない。
でも、今は。
ちゃんと、言えた。
席に座ると、周りから声がかかる。

「名前なんていうの?」

「幼稚園? 保育園?」

「……とわ……保育園だよ」

少しだけ迷って、答えた。
胸の奥が、少しだけ軽くなる。

大丈夫。

そう思えた。
だけど、まだ少しだけ、不安はある。

それでも――

飛羽は、ほんの少しだけ前を向いた。