「本音を隠していた子 — だいじょうぶと、言えるように —」



少し大きめのランドセルが、まだ身体に馴染んでいない。
玄関の前で、飛羽は立ち止まっていた。

「行ってきます」

そう言った声は、前よりもしっかりしている。
けれど、靴を履く手は、ほんの少しだけゆっくりだった。
母親は、その様子に気づいていたが、あえて何も言わなかった。

「いってらっしゃい」

優しくそう返すだけにした。
外に出ると、春の風が少しだけ冷たくて、でも気持ちよかった。
飛羽はランドセルの肩紐をぎゅっと握る。

大丈夫。

心の中で、小さくつぶやく。
幼稚園の頃とは違う道。

知らない人。
知らない場所。
知らない教室。

そして――

もう、今日から苺花先生たちはいない。

ふと、頭に浮かんだのは――

「いい子じゃなくていい」

「トワくんの〝好き〟って気持ちは、大事にしていい」

「思ってること、言っていい」

愛華先生に言われた言葉だった。

……あれ。

一瞬だけ、不思議に思う。

いなくなったことを思い出したのは、あの先生なのに。
浮かんできたのは、別の先生の言葉だった。

でも、飛羽はその違和感の意味を、まだ知らない。

うん、大丈夫。

もう一度、自分に言い聞かせる。
そして、飛羽は歩き出した。