歩いていると学校が見え、靴を履き替え、6-1と書かれた教室へ向かう。
教室に入り、席に座るとほら何か書かれている。
ここで前みたいに逃げ出したら、“しね”、“学校くんな”、“クズおや”に“よわむし”が追加されるんだろう。毎日毎日、朝早くに来て鉛筆で机いっぱいに書くんだろう。
僕の両親は亡くなっていて、しかもそれを引き取ったおじさんとおばさんがこの周辺で有名なクレーマーだから友達がいないし、服もほとんどずっと同じだからいつの間にかいじめられるようになっていた。
周りを見れば、群がってじっと見ている人もいれば、多分いつも僕の机に落書きしている奴らはヘラヘラと笑っている。どこから、こっち見んなよと声が聞こえた。
誰も助けてくれる人なんかいない。
僕は少ないお小遣いで買った消しゴムで机の落書きを消す。
泣きたい、叫びたい、殴りたい、蹴りたい。色々な感情が湧き出る。でも消しゴムにグッと力を入れて我慢する。
先生に報告なんか出来ないし、もし報告したらおじさんとおばさんに嫌になるほど小言を言われるに違いない。
分かってる、僕に居場所なんかない。
授業が終わって、トボトボと家まで歩く。暑い真夏の下校はもう溶けそうだ。だけど今日からは夏休み。そう言えば今日は、お父さんのお兄ちゃん夫婦が住んでる家にお泊まりだった気がする。こんな家や学校から離れられるなら早く行きたい。
少しだけ足を速める。周りを見れば、ボロボロの服の僕を哀れの目で見ている同じ学校の子たちがいる。多分、あの子汚いね、とか、あの子みたいになりなくないよね、って言われてるんだろう。そう考えれば考えるほど、学校が嫌になる。早く逃げ出したい。
家のドアを開けると、玄関には僕が帰って来るのを待っていた、美帆おばさんがいた。
床に座って、足踏みをしながらスマホを触っている。
「お前帰ってくんの遅すぎだろ。今日、あっち行くったろ。さっさと用意しろよ」
「はい。…すぐします。ごめんなさい」
美帆おばさんは、ジロリと僕を睨んだ後、またスマホに目を落とした。
僕は逃げるように自分の部屋に入り、用意を始めた。パンツとシャツと靴下と服とズボンと後は…。
用意が終わると、僕は車に乗る。おばさんはいつもの荒い運転でスピードを上げる。僕のお母さんやお父さんは、事故で亡くなったのに、少しはゆっくり運転しよう、なんて考えにはならないのかな。こんな人がいるから、交通事故は減らないんだろうな。
酔って、吐きそうだけど、外を眺めてなんとか耐える。
いつの間にか、店やマンションが減り、山や少し古い住宅地ばかりの景色に変わる。空いている窓からは、きれいな自然の空気が入って来る。
やがて車は目的地に着いた。
古びた一階建ての家。最近の家とはどこか違うこの昔の家を、僕はまだ上手くは表現できない。
前には緑色の田んぼが広がり、カエルの声が聞こえる。あの溝には、メダカいるかな?ドジョウも見つけられるかな。僕はワクワクした気持ちになる。
この家は、元々僕のお父さんのお母さん、つまりおばあちゃんとお父さんのお兄ちゃん夫妻が住んでいた。けれど、一年前におばあちゃんが病気で亡くなってからは、お兄ちゃん夫妻が住んでいる。
二人は、美帆おばさんや圭吾おじさんなんかよりも、何十、何百倍も優しい。僕のことを大切に大切に扱ってくれる。僕が話をすれば、きちんと聞いてくれるし、朝ごはんだって準備してくれる。本当なら僕はここのお家がよかったな...、っていつも思うけど、多分大人の事情ってやつなんだろうな。
ピーンポーン、と僕はインターフォンを押す。
「はーい。今行きまーす」と声がして、恵美おばさんがガラガラと扉を開けて出てきた。
「あ、悠太君!いらっしゃい」
そう言って僕の頭を撫でる。僕は照れくさそうに少しだけ笑う。悠太って名前呼ばれたの久しぶりだな。
「じゃあ、よろしくお願いします」
美帆おばさんは、車に乗り、また来た道へと戻って行った。
「さあさあ、悠太君入って入って」
リビングに入ると、涼しい空間が広がる。持ってきた荷物を床に置き、ソファに座る。フカフカだ。
「じゃあ今来てもらったばっかなんだけど、おばちゃん今からお買い物行ってきてもいい?」
僕はソファに座ったまま頷く。
「ありがとう。飲み物は冷蔵庫に入ってるし、なんかお腹空いたらいつものとこ入ってるから、テレビでも見て待ってて。あっ、裏山行くなら、もうすぐ暗くなるから先に行っていいよ」
「わかった。ありがとう。気をつけてね」
「うん、じゃあ行ってきます」
恵美おばさんは大きなエコバッグを持って買い物に行った。
ふいに、窓の外を見ると、庭にはぁはぁと舌を出した、犬がこっちを見ていた。確か、柴犬って種類の。確か昔この家でも飼ってた柴犬。外がこんなにも暑いから、きっと水が欲しいんだよね。
僕は庭に出て、昔この家の柴犬が使っていた水入れに水を入れる。蛇口から水を使ったことは後で謝ろう。
「はい、これ飲みなよ。暑いんでしょ」
そう言いながら近くに持って行くと、柴犬は大きな尻尾を振りながら水を飲み始めた。かなり喉が渇いていたのか、入れていた水を飲み干し、また水を追加する。するとまた嬉しそうに水を飲む。その姿に僕は癒された。
この犬は野良犬かな。にしては人懐っこい気がする。家の近くでみた野良犬はずーっと吠えてて、近寄った子は噛まれたって聞いたことがある。でもこの犬はそんなことしないで、ただ水を飲んでいる。
少しすると、犬は水を飲むのをやめて、山の方へと走って行った。何かを思い出したみたいに。また明日も会えたらいいな。
教室に入り、席に座るとほら何か書かれている。
ここで前みたいに逃げ出したら、“しね”、“学校くんな”、“クズおや”に“よわむし”が追加されるんだろう。毎日毎日、朝早くに来て鉛筆で机いっぱいに書くんだろう。
僕の両親は亡くなっていて、しかもそれを引き取ったおじさんとおばさんがこの周辺で有名なクレーマーだから友達がいないし、服もほとんどずっと同じだからいつの間にかいじめられるようになっていた。
周りを見れば、群がってじっと見ている人もいれば、多分いつも僕の机に落書きしている奴らはヘラヘラと笑っている。どこから、こっち見んなよと声が聞こえた。
誰も助けてくれる人なんかいない。
僕は少ないお小遣いで買った消しゴムで机の落書きを消す。
泣きたい、叫びたい、殴りたい、蹴りたい。色々な感情が湧き出る。でも消しゴムにグッと力を入れて我慢する。
先生に報告なんか出来ないし、もし報告したらおじさんとおばさんに嫌になるほど小言を言われるに違いない。
分かってる、僕に居場所なんかない。
授業が終わって、トボトボと家まで歩く。暑い真夏の下校はもう溶けそうだ。だけど今日からは夏休み。そう言えば今日は、お父さんのお兄ちゃん夫婦が住んでる家にお泊まりだった気がする。こんな家や学校から離れられるなら早く行きたい。
少しだけ足を速める。周りを見れば、ボロボロの服の僕を哀れの目で見ている同じ学校の子たちがいる。多分、あの子汚いね、とか、あの子みたいになりなくないよね、って言われてるんだろう。そう考えれば考えるほど、学校が嫌になる。早く逃げ出したい。
家のドアを開けると、玄関には僕が帰って来るのを待っていた、美帆おばさんがいた。
床に座って、足踏みをしながらスマホを触っている。
「お前帰ってくんの遅すぎだろ。今日、あっち行くったろ。さっさと用意しろよ」
「はい。…すぐします。ごめんなさい」
美帆おばさんは、ジロリと僕を睨んだ後、またスマホに目を落とした。
僕は逃げるように自分の部屋に入り、用意を始めた。パンツとシャツと靴下と服とズボンと後は…。
用意が終わると、僕は車に乗る。おばさんはいつもの荒い運転でスピードを上げる。僕のお母さんやお父さんは、事故で亡くなったのに、少しはゆっくり運転しよう、なんて考えにはならないのかな。こんな人がいるから、交通事故は減らないんだろうな。
酔って、吐きそうだけど、外を眺めてなんとか耐える。
いつの間にか、店やマンションが減り、山や少し古い住宅地ばかりの景色に変わる。空いている窓からは、きれいな自然の空気が入って来る。
やがて車は目的地に着いた。
古びた一階建ての家。最近の家とはどこか違うこの昔の家を、僕はまだ上手くは表現できない。
前には緑色の田んぼが広がり、カエルの声が聞こえる。あの溝には、メダカいるかな?ドジョウも見つけられるかな。僕はワクワクした気持ちになる。
この家は、元々僕のお父さんのお母さん、つまりおばあちゃんとお父さんのお兄ちゃん夫妻が住んでいた。けれど、一年前におばあちゃんが病気で亡くなってからは、お兄ちゃん夫妻が住んでいる。
二人は、美帆おばさんや圭吾おじさんなんかよりも、何十、何百倍も優しい。僕のことを大切に大切に扱ってくれる。僕が話をすれば、きちんと聞いてくれるし、朝ごはんだって準備してくれる。本当なら僕はここのお家がよかったな...、っていつも思うけど、多分大人の事情ってやつなんだろうな。
ピーンポーン、と僕はインターフォンを押す。
「はーい。今行きまーす」と声がして、恵美おばさんがガラガラと扉を開けて出てきた。
「あ、悠太君!いらっしゃい」
そう言って僕の頭を撫でる。僕は照れくさそうに少しだけ笑う。悠太って名前呼ばれたの久しぶりだな。
「じゃあ、よろしくお願いします」
美帆おばさんは、車に乗り、また来た道へと戻って行った。
「さあさあ、悠太君入って入って」
リビングに入ると、涼しい空間が広がる。持ってきた荷物を床に置き、ソファに座る。フカフカだ。
「じゃあ今来てもらったばっかなんだけど、おばちゃん今からお買い物行ってきてもいい?」
僕はソファに座ったまま頷く。
「ありがとう。飲み物は冷蔵庫に入ってるし、なんかお腹空いたらいつものとこ入ってるから、テレビでも見て待ってて。あっ、裏山行くなら、もうすぐ暗くなるから先に行っていいよ」
「わかった。ありがとう。気をつけてね」
「うん、じゃあ行ってきます」
恵美おばさんは大きなエコバッグを持って買い物に行った。
ふいに、窓の外を見ると、庭にはぁはぁと舌を出した、犬がこっちを見ていた。確か、柴犬って種類の。確か昔この家でも飼ってた柴犬。外がこんなにも暑いから、きっと水が欲しいんだよね。
僕は庭に出て、昔この家の柴犬が使っていた水入れに水を入れる。蛇口から水を使ったことは後で謝ろう。
「はい、これ飲みなよ。暑いんでしょ」
そう言いながら近くに持って行くと、柴犬は大きな尻尾を振りながら水を飲み始めた。かなり喉が渇いていたのか、入れていた水を飲み干し、また水を追加する。するとまた嬉しそうに水を飲む。その姿に僕は癒された。
この犬は野良犬かな。にしては人懐っこい気がする。家の近くでみた野良犬はずーっと吠えてて、近寄った子は噛まれたって聞いたことがある。でもこの犬はそんなことしないで、ただ水を飲んでいる。
少しすると、犬は水を飲むのをやめて、山の方へと走って行った。何かを思い出したみたいに。また明日も会えたらいいな。



