棘ある花も愛されたい


「じゃあ、次は我が家に招待するよ。すぐ近所だし。」

納豆を白米にかけながら禅さんが言う。
わたしは「え、いいんですか?」と言って、白米を頬張った。

「女性のお宅にお邪魔してばかりも悪いからね。紗和ちゃんが抵抗なければ、是非いらしてください。」
「じゃあ···、次はお邪魔させていただきます。」
「おっけ!じゃあ、部屋片付けておかないとなぁ。」

そう言って笑う禅さんは、納豆ご飯をかき込む。
禅さんの良い食べっぷりを見ていると、何だかご飯を作ってあげたい気持ちが湧き上がってくるように感じた。

「禅さんって、一日中お家で仕事してるんですか?」

わたしがそう訊くと、禅さんは納豆でネバネバになった口元を手で隠しながら「うん、そう。」と頷いた。
そしてわたしがティッシュを差し出すと、禅さんはそれを受け取り「ありがとう。」と言って、口元をティッシュで拭いていた。

「一人で一日中家に居て仕事してるとさ、時間の感覚とかも分かんなくなっちゃって、体内時計も狂ってきちゃってるんだよね。だから、たまに担当が来る時も寝ちゃってたりとかするんだぁ。」

そう話す禅さんは、口の中をリセットするかのようにビールを口に含み飲み込む。
そんな禅さんの口から出て来た"担当"という言葉に疑問を抱いたわたしは、「担当?」と首を傾げた。

「あ、担当ってのは、編集担当者の事。実は俺、作家なんだ。」

禅さんの発言にわたしは「えっ!」と驚く。
そんなわたしの反応に禅さんは笑いながら「え?意外だった?」と言った。

「意外でした。それに作家さんがこんな近くに居たなんて······」
「そんな珍しくもないでしょ?」
「珍しいですよ。かっこいいですね。」
「そうかな?」
「どんな小説書いたりしてるんですか?」

わたしがそう訊くと、禅さんは「俺が書くのは、ミステリーが多いかなぁ。」と言い、箸を揃えて茶碗の上に置くと、手を合わせて「ご馳走様でした。」と言った。

「ミステリーって、推理ものとかですか?」
「まぁ、そんな感じかな?」
「へぇ〜、凄い。」

わたしがそう言って、胡瓜の浅漬けを摘むと、禅さんは「何か、凄いなんて言われると、照れるなぁ。」と言いながら、長い前髪をかき上げていた。

「じゃあ今度、読ませてください。」
「いいけど、紗和ちゃんって小説読むの?」
「若い頃は、読んだりしてましたよ。」
「若い頃って、今でも若いでしょ?」
「そんな事ないですよ。もう29ですから。」

わたしがそう言うと、禅さんは「あー、じゃあ俺の3つ下なのかぁ。」と言いながら宙を仰ぎ、缶ビールを喉に流し込んだ。