棘ある花も愛されたい


「よろしくね!」
「よろしくお願いします。」

そう言い、ベンチから立ち上がるわたしたちは、公園の小山を下り始める。
禅さんは今更、「寒いなぁ〜!」と身を縮めながら、コートのポケットに手を突っ込んでいた。

「紗和ちゃん、こんな時間に一人で出歩いたら危ないよ?変な男が彷徨いてたりするからさ。」
「それ、禅さんが言います?」
「え、だって俺、彷徨いてはいないから。ベンチに寝転がってただけ!」
「まぁ、確かに······」
「え?って事は、紗和ちゃんは俺を"変な男"だと思ったって事?」
「はい。」
「っおい!それなら、"変な男"に話し掛けちゃダメだろ!」

そんな会話を交わしながら、わたしは禅さんと笑い合い、わたしの自宅がある方向へと歩き始めた。
初めて会った人とは思えない程、話しやすい禅さんの雰囲気にわたしは寂しさも紛れ、いつの間にか心が解かれていったのだった。

それから辿り着いたわたしの小さな城。

扉を開けた瞬間に気付いたが、わたしの自宅に諒祐以外の男性が来るのは初めてだ。

「どうぞ、狭いですけど······」

わたしはそう言い、ムートンブーツを脱ぐ。
禅さんは物珍しそうな表情で「お邪魔します。」と家の中を見回すと、玄関の扉を閉めた。

「何か、今更だけど、初めて会った男を家に上げちゃって大丈夫?」

不安気にそう言う禅さんに、わたしは「下心がないなら、どうぞ。」と言い、リビングへと進んだ。
リビングに入ると、室内はすっかりストーブで温まり、寒さで強張っていた身体も解けていく。

わたしはレジ袋をテーブルの上に置くと、マフラーを解き、ダウンジャケットを脱いで、壁についているウォールハンガーにマフラーとダウンジャケットを掛けた。

そして、恐る恐るリビングまで辿り着いた禅さんにわたしが「コート、預かります。」と言って手を出すと、禅さんは「あっ、お願いします。」と言いながらコートを脱ぎ、わたしに差し出した。

「今、ご飯準備するので、適当に座っててください。」

わたしは禅さんのコートを掛けながら、そう言う。
禅さんは低姿勢で控えめにソファーに腰を下ろすと、「女性の部屋なんて入る事ないから、緊張するなぁ。」と呟いていた。

「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ。」
「彼女とかは?」
「もう何年もいないし、今は仕事ばっかりしてるからね。」

そう話しながら、わたしは食器棚から茶碗を取り出し、禅さんの顔を盗み見る。

暗がりの中でも整った顔立ちだとは思ったが、やはり明るい場所で見ても禅さんは綺麗な顔立ちをしており、うねった長い前髪とクールな瞳が色気を漂わせている。

こんな人に彼女がいないだなんて―――···

しかし、普段は家に籠って仕事ばかりしているようなので、そのせいで出逢いがないのだろうと思った。