棘ある花も愛されたい


そして、その日の仕事終わり。
今日は20時に終わり、帰り道は真っ暗だ。

(今日も寒いなぁ。)

そう思いながら、家路につこうとした時だった。

「紗和ちゃん!」

わたしを呼ぶ声が聞こえ、ハッとしながら前を向く。
すると視線の先には、こちらに向かって歩いて来ながら手を大きく振る、禅さんの姿があったのだ。

「禅さん。」
「帰り危ないと思って、迎えに来ちゃった。」

そう言ってこちらに駆けて来た禅さんは、前髪をかき上げる。
わたしは嬉しさから緩む口元をマフラーの中に隠して、「わざわざ来てくれたんですか?」と言った。

「迷惑だったかな?」
「いえ、迷惑だなんて。」
「良かった。実は今日、俺が飯作ってみたから、紗和ちゃんに食べてもらいたくて!」

そう言い照れ笑いを浮かべる禅さんの表情を見て、わたしは愛おしくなる。
それに滅多に自炊しない禅さんが、わたしに"食べてもらいたい"とご飯を作ってくれた事が何より嬉しかった。

「何作ったんですか?」
「それは着いてからのお楽しみ!ってか、そんな事言ったらハードル上がっちゃうか!そんなに期待しないでね?」

そう言ってちょっと慌てる禅さんの姿にわたしが笑うと、禅さんは優しい表情を浮かべ、すっと自然にわたしの手を握り締めた。

その事に驚くわたしは、目を丸くして禅さんを見上げる。
禅さんは少し不安気に微笑みながら「ダメ、かな?」と言った。

「···いえ、ダメじゃ、ないです。」

わたしが恥ずかしさから俯加減でそう答えると、禅さんは「良かった。」と言って
繋ぐわたしの手を微かに強く握り締めた。

「じゃあ、帰ろうか。」
「はい。」

そう言ってわたしたちは、寒空の下を手を繋ぎながら歩く。
禅さんの大きな手は温かく、わたしの手を包み込んでくれた。