棘ある花も愛されたい


「何か良い事でもあったんですか?」

何気ない青佐くんの質問に、何故か恥ずかしくなる。

"良い事"―――

わたしの中での"良い事"は、禅さんの存在そのものだ。

「うん、まぁね。」
「おっ、そうなんですね!良い事かぁ〜!もしかして、彼氏が出来たとか?」

青佐くんの言葉に「えっ!」と、わたしはドキッとさせられる。

別に禅さんは、わたしの恋人ではない。
青佐くんも冗談半分でそう訊いている事は分かっている。

それなのに、どうしてわたしは、こんなにも焦ってしまったのだろう。

「えっ、もしかして、図星ですか?」
「あ、いや、違うよ。全然そんなんじゃ···」

わたしがそう言って否定すると、青佐くんは作業をする手元を止めて、まるで魂が抜けてしまったかのように硬直してしまった。

「ん?青佐くん?」

そんな青佐くんにわたしが声を掛けると、青佐くんはハッとしたように我に返り、「あ、へぇ〜···そうなんですね、彼氏かぁ···」と、独り言のように呟いていた。

「あ、いやいや、だから彼氏とかそんなんじゃなくて、」
「そんな隠す事ないですよ!土倉さん、美人だし、彼氏の一人や二人いてもおかしくないですから!」
「いや、二人いるのはおかしいでしょ。」
「あ、そ、そうですよね!あ!土倉さんが、二股かけるように見えるとか、そんな事言ってませんからね?!」

そう言って一人で空回りする青佐くんに、そんな青佐くんを見て笑うわたし。

青佐くんの空回りのおかげでわたしの恥ずかしさは、どこかへ飛んでいってしまい、何とか誤魔化す事が出来た。

自分で気付いていた自分自身の気持ちから目を逸らし、向き合おうとしていなかったけれど、青佐くんの言葉でわたしは禅さんへの特別な気持ちを認めざるを得なくなっていた。

本当はこわかった。
また誰かを好きになって、また失った時の悲しみや寂しさを味わう事が···―――

それでも自分の気持ちに嘘はつけない。

わたしは、もう既に禅さんに恋心を抱いてしまっているのだ。