棘ある花も愛されたい


青佐くんは、職場で唯一わたしに話し掛けてくれる同僚だった。
他の人たちは、挨拶や最低限の仕事の話をするくらいで、世間話などは一切しない。

直接的に言われたわけでは無いが、前に誰かが「土倉さんって、話し掛けづらいよね。」「わかる、何か棘があるっていうか。」と話しているのを聞いた事があり、わたしは周りの人たちから見れば苦手な存在らしい。

確かに愛想はないし、自分から積極的に話し掛けるタイプでも無ければ、コミュニケーションが苦手な為、わたしは昔から誤解されがちなのだ。

そんなわたしに青佐くんだけは積極的に声を掛けてくれる。
昔から親しい友達がいないわたしにとっては、貴重な存在だ。

そして、いつもと同じような時は流れ、19時半に青佐くんが退勤し、わたしは予定通り定時の20時に退勤をする。

わたしは私服の上から着ている制服の黒いTシャツを脱ぐと、簡単に畳んでトートバッグの中に入れる。
それからダウンジャケットを羽織り、マフラーを首に巻いて、トートバッグを肩に掛けた。

「お疲れ様でした。」

そう言って、わたしが従業員の出入口から外へ出ると、すぐ横にある電柱の傍に青佐くんが立っているのが見えた。
青佐くんはわたしに気付くと、少し恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべながら「お疲れ様です。」と声を掛けてくれた。

「ごめんね、待たせちゃって。」

わたしがそう言い駆け寄ると、青佐くんは「いえ、大丈夫です!」と首を横に振った。

「じゃあ、帰りましょうか。」

そう言い、わたしたちは雪道を歩き出す。
青佐くんがこうして帰りに送ってくれるのは、今までにも何度かあり、珍しい事ではないのだが、わたしはどうも青佐くんと並んで歩く事に慣れず、毎度何を話したら良いのか分からなくなってしまうのだ。

「あ、えっと、土倉さんって···、一人暮らし、ですよね?」

突然の青佐くんからの質問に、わたしはハッとし、「うん、一人暮らしだよ。」と答える。
すると、青佐くんは続きの言葉を探すように「一人暮らしは、長いんですか?」と訊いてきた。

「んー、そうだね。高校卒業してから、ずっと一人暮らしかな。」
「え!マジっすか?!」
「うん。青佐くんは?」
「俺は、去年やっと実家出て、一人暮らし始めたばかりです。」
「そうなんだぁ。一人暮らしはどう?」

わたしがそう訊くと、青佐くんは「んー、やっぱり色々大変っすね。実家の有難みが身に沁みてます。」と言い、苦笑いを浮かべていた。

青佐くんのその言葉を聞き、わたしは(きっと、実家では愛されて育ったんだろうなぁ。)と感じた。

わたし自身は、実家は居心地が悪く、すぐにでも一人暮らしをしたいと思いながら生きてきていた為、実家の居心地の良さを知らないからだ。