「奏!」
名前と同時に、手をぐっと引かれる。
ふいに列から引き寄せられて、
「セ……ナ君……」
ほんの一瞬、世界の音がすっと遠のいた気がした。
雪が降る直前みたいな、静かな静かな時間。
「……いこーぜ」
そのまま、繋いだ手を離さないまま、彼は人混みの列へ戻っていく。
久しぶりに見たセナ君は、黒髪から以前に近い明るい髪色になっていて……
また違う人みたいに見えて、緊張してしまう。
それなのに、その手だけは見慣れていて、余計に心臓が落ち着かない。
何か話さなきゃって思うのに、伝えたいことはたくさんあるのに、言葉がうまく出てこない。
次のシングルのコンペの連絡が来たんだよ。
クリスマスは友達とお泊まり会して……
年末、みんなが出てた番組、いっぱい観たの。
カウントダウンコンサート……楽しかった、面白かった。
ぜんぶ話したいのに、うまく言えない。
それでも、手のぬくもりだけは、たしかに伝わってきて……
さっきまで少し遠かった距離が、指先ひとつで元に戻っていくみたいで、胸の奥がじわっと熱くなる。
どうしよう、手汗とかかいてないかな……!
「着物……」
不意にセナ君が口を開いた。
「え?」
「着物。……いーじゃん」
「でも……こんなに混んでると思わなかったし。みんなとはぐれちゃったし……やめとけばよかったかなって……」
「なんで?手ぇ繋いでりゃ、はぐれねーじゃん」
ずっと、繋いでてくれるってこと……?
胸がきゅっと鳴って、何も言えなくなる。
人混みの中で、離さないって言われたみたいで。
そんなの、うれしくないわけない。
しばらくして、やっと拝殿前にたどり着く。
繋いでいた手が、そっと離れていって、その指先が名残惜しくて目で追いかけた。
そっと手を合わせ、静かに目を閉じ、心の中でお願いごとを唱える。
……みんなが健康でありますように。
スターライトパレードの曲が、たくさんの人に届きますように。
それから……今年は、ちゃんとたくさん曲が書けますように。
薄く目を開け、隣を見ると……
横顔の美しさに、思わず息を呑む。
相変わらず、ずるいくらい綺麗な顔。
……よし、私も。
……………………
……あれ?
セナ君、お願い……長くない?
気になって、思わず小声で尋ねる。
「セナ君……大丈夫?何、お願いしてるの?」
ゆっくりと目を開けた彼が、こちらを向く。
「奏さんと仲直りできますよーに!」
「えっ……?」
「ん」
思わず見つめ返した私の手に、また彼の手が伸びてくる。
ぎゅっと差し出されたそのぬくもりに、自然と応えるように手を取った。
「奏さんと仲直りできますよーに!ってお願いしたの!」
「ぷっ……!」
こらえきれず、吹き出してしまう。
「神様に?そんなの……ふふっ、そんなお願い事……あははははっ!」
「おまっ……そんな笑うなよ!こっちは真剣なんだから……」
「だって……」
涙が出そうなくらい、嬉しくて。
少しだけ震える声で、言った。
「そんなお願い、もう叶ってるのに?」
そう言った自分の声が、思ったよりずっとやわらかくて、少し照れくさくなる。
でも、もうごまかしたくなかった。
うれしいものは、うれしいって、ちゃんと顔に出てしまっていたと思う。
その瞬間、ずっと胸の奥に残っていたつっかえが、するっと落ちていく気がした。
謝っても、謝られてもいなかったのに。
ちゃんと話し合ったわけでもなかったのに。
それでも今、この手のぬくもりだけで、もういいって思えた。
神社のざわめきも、鈴の音も、冬の冷たい空気も、全部が少しやさしく感じられる。
今年の最初に引いた手が、この手でよかったって、そんなことまで思ってしまって。
参道の向こうでは、みんなの笑い声がまだ遠くに聞こえていた。
はぐれて、見つけてもらって、笑って、また並んで歩ける。
たったそれだけのことが、どうしようもなく幸せだった。
私はもう一度、小さく笑った。
たぶん、今年はいい年になる。
そんな気がした。きっと、ね。
名前と同時に、手をぐっと引かれる。
ふいに列から引き寄せられて、
「セ……ナ君……」
ほんの一瞬、世界の音がすっと遠のいた気がした。
雪が降る直前みたいな、静かな静かな時間。
「……いこーぜ」
そのまま、繋いだ手を離さないまま、彼は人混みの列へ戻っていく。
久しぶりに見たセナ君は、黒髪から以前に近い明るい髪色になっていて……
また違う人みたいに見えて、緊張してしまう。
それなのに、その手だけは見慣れていて、余計に心臓が落ち着かない。
何か話さなきゃって思うのに、伝えたいことはたくさんあるのに、言葉がうまく出てこない。
次のシングルのコンペの連絡が来たんだよ。
クリスマスは友達とお泊まり会して……
年末、みんなが出てた番組、いっぱい観たの。
カウントダウンコンサート……楽しかった、面白かった。
ぜんぶ話したいのに、うまく言えない。
それでも、手のぬくもりだけは、たしかに伝わってきて……
さっきまで少し遠かった距離が、指先ひとつで元に戻っていくみたいで、胸の奥がじわっと熱くなる。
どうしよう、手汗とかかいてないかな……!
「着物……」
不意にセナ君が口を開いた。
「え?」
「着物。……いーじゃん」
「でも……こんなに混んでると思わなかったし。みんなとはぐれちゃったし……やめとけばよかったかなって……」
「なんで?手ぇ繋いでりゃ、はぐれねーじゃん」
ずっと、繋いでてくれるってこと……?
胸がきゅっと鳴って、何も言えなくなる。
人混みの中で、離さないって言われたみたいで。
そんなの、うれしくないわけない。
しばらくして、やっと拝殿前にたどり着く。
繋いでいた手が、そっと離れていって、その指先が名残惜しくて目で追いかけた。
そっと手を合わせ、静かに目を閉じ、心の中でお願いごとを唱える。
……みんなが健康でありますように。
スターライトパレードの曲が、たくさんの人に届きますように。
それから……今年は、ちゃんとたくさん曲が書けますように。
薄く目を開け、隣を見ると……
横顔の美しさに、思わず息を呑む。
相変わらず、ずるいくらい綺麗な顔。
……よし、私も。
……………………
……あれ?
セナ君、お願い……長くない?
気になって、思わず小声で尋ねる。
「セナ君……大丈夫?何、お願いしてるの?」
ゆっくりと目を開けた彼が、こちらを向く。
「奏さんと仲直りできますよーに!」
「えっ……?」
「ん」
思わず見つめ返した私の手に、また彼の手が伸びてくる。
ぎゅっと差し出されたそのぬくもりに、自然と応えるように手を取った。
「奏さんと仲直りできますよーに!ってお願いしたの!」
「ぷっ……!」
こらえきれず、吹き出してしまう。
「神様に?そんなの……ふふっ、そんなお願い事……あははははっ!」
「おまっ……そんな笑うなよ!こっちは真剣なんだから……」
「だって……」
涙が出そうなくらい、嬉しくて。
少しだけ震える声で、言った。
「そんなお願い、もう叶ってるのに?」
そう言った自分の声が、思ったよりずっとやわらかくて、少し照れくさくなる。
でも、もうごまかしたくなかった。
うれしいものは、うれしいって、ちゃんと顔に出てしまっていたと思う。
その瞬間、ずっと胸の奥に残っていたつっかえが、するっと落ちていく気がした。
謝っても、謝られてもいなかったのに。
ちゃんと話し合ったわけでもなかったのに。
それでも今、この手のぬくもりだけで、もういいって思えた。
神社のざわめきも、鈴の音も、冬の冷たい空気も、全部が少しやさしく感じられる。
今年の最初に引いた手が、この手でよかったって、そんなことまで思ってしまって。
参道の向こうでは、みんなの笑い声がまだ遠くに聞こえていた。
はぐれて、見つけてもらって、笑って、また並んで歩ける。
たったそれだけのことが、どうしようもなく幸せだった。
私はもう一度、小さく笑った。
たぶん、今年はいい年になる。
そんな気がした。きっと、ね。
