スターライトパレード

小さく頷く彼女を連れて立ち上がる。
エレベーターへ向かいながら、もう次の展開が読めてた。

「ね、セナ君?」

首に回される腕、甘く湿った息。
潤んだ瞳が、誘うように見上げてくる。
腰にまわされた手が、体温を伝えてくる。

背伸びして、唇が触れる。
軽く重ねたキスが、だんだんと深くなる。

軽く触れるだけのキスから、徐々に深くなる。
甘い吐息。唇の柔らかさ。舌の熱。
……ひどく、味気ないのに。

ドラマでもなく、撮影でもないキス。
そんなの、いつぶりだろ。

奏と再会してからは、ずっと『してなかった』。

タクシーに乗り込みシートベルトをするのも忘れたまま、彼女がそっと身を寄せてくる。
手が触れ合い、髪に指を滑らせ、唇が近づく。

トンネルに入ると、車窓の光がふっと落ちて、見慣れた車窓を眺めながら、オレたちは何度もキスを重ねていた。

ホテルのエレベーター。
部屋のドアが閉まり、淡い光が差し込む。
その瞬間から、もうスイッチが入ったように彼女が身体を寄せてきた。

唇が、肌が、指先が熱を持ち始める。
互いの吐息がかすかに混ざるたび、火が灯るように。

「夜景……すごいね……この部屋、何回目?」
「初めてに決まってんじゃん」

嘘だ。でも、きっと彼女もそんなことはわかっている。

ベッドサイドに腰かけた彼女が、髪をかき上げる。
その仕草が、異様に艶っぽく見えた。
淡い光が、彼女の輪郭を滲ませる。

「ね……こっち……」

指先が伸びてくる。
その手を取って、ベッドへと押し倒す。

目の前でじっとこちらを見つめる瞳。
触れた肌は、火傷しそうなくらい熱を帯びていた。

シャツを脱ぎ、彼女の熱を肌で感じながら唇を重ねていく。
体温が混ざっていくたび、感覚だけが先走る。
柔らかい胸元、くびれた腰、首筋に落とすキス。
何度も、何度も、まるで『段取り』のように。

唇を重ね、手が首筋をなぞり、腕を撫でる。

けど、そのたびに、心が軋んだ。

「もう、いいよな……今が気持ち良ければ」

そんな言い訳が、頭をよぎる。
これ以上進めば、戻れない。
それでも止まれなかった。
……止まれないフリをしていた。

奏……
瞬間、フラッシュのように脳裏をよぎる。
ラウンジ嬢の吐息の奥に、奏の声が重なる。

想像の中。
オレの前で、少しだけ怯えたように目を伏せている奏がいる。

震える指先を伸ばして、ぎこちなくシャツの裾を掴んできて……

奏は、どんなキスをするんだろう。

「……セナ君」

その声ひとつで、もう限界だった。
腕の中で、小さくなる奏を包み込むように抱き寄せて、そっと髪に口づける。

奏なら、きっと…
きっといつまで経ってもこんな慣れたキスなんてできないんだろうな。
自分から背伸びなんて絶対してこない。

オレが、宝物みたいに包むように抱きしめて。
額に、目元に、頬に。
時間をかけて丁寧に触れて、そのたびに、奏の体温がじんわり伝わってきて

「……んっ……」

唇に触れただけで、目を逸らして赤くなる。
恥ずかしそうに耳を押さえるその姿が、どうしようもなく愛おしかった。

もっと見たくなる。
もっと触れたくなる。

髪をかき上げて、耳元をそっと甘噛みすると

「……あ……っ」

肩が跳ねて、息が詰まる奏の声。

そのまま、首筋にも口づけて。
潤んだ目で見上げてくる顔が、泣きそうなくらい可愛くて、ただ、ただ、息を呑んだ。
見上げる目は、泣きそうなくらい潤んでいて、きっとそんな表情も全部……全部たまらなく可愛くて、愛しくて……

「奏……」

名前を呼ぶたび、このまま『全部』を重ねてしまいたくなる衝動に、抗えなかった。

そんな表情を見たら、絶対にまた口を塞ぎたくなる。
口なんて開かせようなもんなら息のタイミングもわからなくて……

そんな顔、絶対誰にも見せんなよ。
オレだけに見せろよ。

……奏なら、きっと。
もっと、もっと……

……