スターライトパレード

怜央さんとお台場に行った四日後。
指定された時間に、コートを返しに事務所を訪れた。
紙袋の中には、借りたコートと、お礼のクッキー。
中身を確認しながらエレベーターを待つ。

チンッ。

開いたエレベーターから出てきたのは、セナ君だった。
コツッとブーツの音を鳴らして降りてきて、そのまま私の真正面に立つ。
ドアの前に立たれてしまって、私は乗り込めないまま一台見逃してしまった。

「どした?今日は」
「あ……えっと、怜央さんに借りた服を返しに」
「はぁ!?レオの服??なんで??」

いきなりの剣幕に、びっくりしてしまう。

「え?車でお台場に連れて行ってくれて……」
「は?レオの車?車に乗ったの!?で、お台場!!??」

え……?
何……?
何かおかしい??

「……知ってる?あのランドクルーザーに乗せて落ちなかった女、いないんだぜ」

確かに……乗り心地もよくて、運転する怜央さんはすごく様になっていた。
あの横顔と、車をバックさせる時の仕草は反則だと思う。
本当にドラマのワンシーンみたいだった。

「で、車乗って、好きになっちゃって、お台場に泊まっちゃったわけだ」

はぁぁぁ!!??
なんでそんな話になるの??
あまりにも突然の言いがかりに、言葉を失う。

「……怜央さんの話なんてしてないじゃん……」

何も悪いことをしていないのに、責められてる気がして怒りがこみ上げてくる。

「自分なんて、元カノさんにあんな酷い態度取ってるくせに!!」
「はぁ!?元カノのことがなんで今出てくるんだよ!」
「怜央さんは私をドライブに誘ってくれただけなのに!怜央さんのことまで悪く言うなんて酷くない!?」

そもそもが……そもそもさぁ……

チンッ。

エレベーターの扉が開いて、今度は怜央さんが降りてくる。

「あ、いたいた。そろそろ来るかと思ったけど、遅いから……」

もう言い出したら止まらなくなってしまって、

「セナ君、別に私の彼氏でもないのに……私が誰の車に乗ろうが勝手じゃない!?」
「~~~~っ!じゃあ勝手にしろよ!」
「っ!言われなくても、勝手にするけど!?」

私とセナ君のただならぬ空気を察して、怜央さんが口を挟む。

「ちょっと二人とも落ち着いて……セナも……お前、何やってるんだよ」
「別に……なんも……」

『別に、なんも』って……なんもじゃなくない!!??
私、めちゃくちゃ酷いこと言われた気がするんだけど!?

怜央さんに紙袋を渡す。

「コート!ありがとうございました!お礼のクッキー、後で食べてください!!」

セナ君をきっと睨む。
何か……何かひとこと言ってやりたい……!

「~~~~~~~!!っセナ君の……あ、あんぽんたん!!!」
「はぁ!?あんぽんたんって、おま……」

セナ君が何か言いかけてるけど、もう聞かずに外へ走り出す。

もうっ……知らない……
ケンカなんてするつもりじゃなかったのに。
怜央さんとのことで、変なことを勝手に想像して……!!!

「奏ちゃん!」

少し走って立ち止まり、呼吸を整えていると、後ろから怜央さんの声が聞こえた。

「良かった、追いついて。遠くに行っちゃってたらどうしようかと思った」

怜央さんが私の手を引く。

「もう日が短くなってきたよね。夜、危ないから送るよ」

私が世界で一番好きな手は、ママの綺麗な手。
細くてしなやかで、爪は伸ばせないけれど、いつも手入れされていて。
弦を持った時に綺麗に塗られたネイルが、とても映える。

次に好きなのは、パパの手。
いつも私を守ってくれる優しい手。

怜央さんの手は……少しパパの手に似ている気がした。
セナ君の手は……誰とも似ていない気がした。

送ると言っていた怜央さんだけど、この後雑誌の撮影があることを思い出したらしく、結局タクシーで帰宅することに。
セナ君といい、怜央さんといい……過保護すぎない?

……初めて、パパとママ以外の人とケンカしたかも。

少し憂鬱な、重い気持ちになる。
きっともうすぐ期末テストだからだ。
……たぶん。
そういうことにしておく。