スターライトパレード

警備の人に案内されて、空港の特別待合室でみんなを待つ。
やがて扉が開き、メンバーたちが案内されてきた。

久しぶりに見る、元気なみんなの顔。
ホッとして、思わず駆け寄りそうになる……

「あんたたち……懲りずにノコノコと、こんな所まで来て……」

ママの剣幕に、出かかった言葉を飲み込む。
この口調は……本気で怒っている時の……

でも、みんなは思ったより怯まなかった。
椿さんは一歩引いた位置で空気を見ているし、怜央さんは何も言わずにこちらを見守っている。
信さんも、真央君も、遊里君も、蓮君も。
みんながそこにいるだけで、不思議と逃げたくないと思えた。

「奏、大丈夫だから。ちゃんと、自分の気持ちを伝えなさい」

パパの言葉に小さく頷き、前に出て、ママに向かって立つ。
足が震える。逃げ出したい。
けれど……それ以上に、私は……ここに残りたい!

「ママ、ごめんなさい。私は……フランスには行けない」

一瞬で空気が張り詰める。
でも、目を逸らさず、ちゃんと伝えたい。

「きっと、ママから見たら今の私はまだまだ未熟で、甘くて、甘えていて、夢なんて言葉でごまかしてるように映るかもしれない。
でも……それでも、私は今、心から音楽と向き合いたいと思ってるの」

大丈夫……
きっとママはわかってくれる……
そう信じたいのに、声は少しずつ震える。
それでも、途中で止まりたくなかった。

「ママが私に音楽を教えてくれた。ずっとピアノが好きで……弾けなくなっても離れられなかった。
でも、今は……みんなのために、弾きたいと思えるの。やっと、自分の音を見つけ始めたの」

ここで止まったら、きっともう二度と言えない。
そう思って、私は息を吸い直す。

「ママが教えてくれたことを、私は捨てたいんじゃない。
クラシックが嫌になったわけでもない。
ただ、今の私は、ここでしか見えない景色をちゃんと見たいの。
誰かの声や、笑顔や、痛みや、願いごとまで音にしたいの。
それを『逃げ』だって言われても、今はもう、違うってわかる。
だから、お願い。今だけは……私の音を信じて……!」

言い切った瞬間、胸の奥が痛いくらい熱くなった。
怖い。
でも、ちゃんと伝えられた気がした。

「はぁーーーーーっ」

ママの大きなため息が響く。

「あなた……知っていたのね?奏がこいつらの曲を作っているって」

ぎろりとパパを睨むママ。
まったく動じないパパに、思わず尊敬してしまう。

「ふぅ……あなた、なんだか疲れたわ。ラウンジで休める部屋、お願いできるかしら」
「ママ!!!」

ソファから立ち上がり、部屋を出ようとするママを呼び止める。
ママと真正面から顔を合わせたのは……いつぶりだろう。

「……認めたわけじゃないわ。今でも、奏がいちばん輝けるのはクラシックよ」

荷物を持ち、背を向けて歩き出すママ。
その言葉に、一瞬だけ胸が沈む。
でも、次の一言が、全部ひっくり返した。

「ただ……さっきの曲だけは、とても良かったわ」

え、それって……

「良かったね。がんばれ、だってさ」
「パパ……」

パパもママの後を追って部屋を出ようとする。
その途中、椿さんの前で足を止める。

「君がリーダーで良いのかな?」
「あ、はい!スターライトパレードのリーダーの椿翔平です。奏さんにはいつもお世話になって……」
「今度、帰国したらそちらの会社の方にご挨拶がしたいんだが、名刺を上の人に渡してもらえるかな」

名刺を渡すパパ。

「奏の曲を、大切にしてくれてありがとう」

呆然として言葉が出ない。
思わず何も言えず見送ってしまったことに気づいて、私は部屋を出たママとパパを思わず追いかける。

「パパ!ママ!!」

これだけは、伝えないと。
そう思っていたことがある。

「ママ……私は、今もママと共演することが夢だよ」
「!」
「ありがとう、ママ……パパ」

その言葉に、ママがそっと私を抱きしめてくれる。

「大好きよ。今でも奏が……奏のピアノが、世界で一番大好きよ」

……あの時と変わらない、優しいママのあたたかさが、とても嬉しかった。