スターライトパレード

今日も、昨日と同じように過ごす。
六時。夕食が届く時間。

いつもならそんなに気にしないのに、今日はなぜかその時間ばかり気になった。
リビングから、インターフォンの鳴らない玄関をじっと見つめる。
自分でも何を待っているのかわからないのに、耳だけがずっと外の気配を探している。

コンコン……

ドアをノックする音。

「奏」

胸の奥が、ぐっと熱くなる。

「……セナ君……!」

思わず玄関へ駆け寄って、ドアノブに手をかける。
でも、ぎりぎりのところで踏みとどまった。
開けたい。
でも開けたら駄目だ。
その二つがぶつかって、手だけが中途半端な位置で固まる。

「……どした?」

思わず言葉が詰まる。

「……オレ……なんかした?」
「!? ちが……違うよ!!」

それだけはすぐに否定できた。
誤解されたくなくて、私はここ数日のことを全部話す。
偶然テレビにママが出て、私が内緒で作っていた曲のことがばれたこと。
スマホもネットも取り上げられ、インターフォンまで切られたこと。
学校も辞めさせられて、フランス行きの日まで部屋に閉じ込められていること。
言葉にしているうちに、ようやく自分がどれだけ追い詰められていたのか、逆に思い知らされるみたいだった。

「とりあえず、メシでドアは開けられるんだろ?」
「……でも……ママに通知が行っちゃうの……」

ドアを開けるだけで、警備会社から連絡が行く。
下手したらセナ君まで巻き込んでしまう。

「今度は次に開けられる時間まで、私がセナ君を監禁することになっちゃう……」
「……いーよ」
「え……?」
「お前になら監禁されても」

胸が跳ねる。
思いがけない言葉。
でもきっと、こういうことをさらっと言える人なんだ。
あの番組で見た女性との距離感が頭をよぎって、素直に受け取れない自分もいる。

「だめ……だよ……お仕事……きっと今日だって明日だっていっぱいあるんでしょ……?」
「ふっ……だな」

笑った気配が、扉越しでもわかる。
私はそっとドアに手を添えた。
でも、開ける勇気はやっぱり出なかった。

「な、ピアノ弾いてよ。なんか作ってんだろ?」
「あ……うん! アルバムの曲のコンペの案内が来てて……ずっとその曲ばっか弾いてる」
「聴かせてよ」
「ちょっと待っててね。キーボード玄関前に持ってくる!」
「え? おい、無理すんなって」

返事も聞かずに廊下を走って、キーボードを玄関前へ持って……行け……ない……

「ごめん……想像以上に重くて……」
「大丈夫かよ。無理すんなって……あーっと……Bluetoothは繋がんね?」
「……待って」

Macを開いて、Bluetooth設定を確認する。
Wi-FiもiCloudも切られている。
でも……

「生きてる……!」

すぐに『Sena's iPhone』が表示された。
祈るような気持ちでタップする。
……接続済み。

すぐに玄関へ戻って伝える。

「セナ君! Bluetooth繋がった!」
「マジで!?」
「弾くから……聴いててね」

再びキーボードに戻り、椅子に座る。
深呼吸して、鍵盤に手を置く。
部屋の中に、澄んだピアノの旋律が流れ出す。