スターライトパレード

「そういや、あんなリビングに設置して家族は何もいわねーの?」
「え?……」

私は思わず、ソファの後ろに置いてもらった機材を見る。

「……あー、基本は一人暮らしなの。防音室もあるんだけど、ピアノがあって入らなくて」
「防音室?……マジ? お前そんなお金持ちなの?」
「あ……どう……なんだろう、ね? ここまですると思ってなくて……」

家のことには、あまり触れたくない。
曖昧にごまかして、そのまま急いで話題を変える。

「そういえば! いつまで黒髪なの?」
「映画の撮影が終わるまでだから、二か月くらいかな」

わあ……やっぱりすごいな。
髪色まで役に合わせて変えちゃうなんて。

「セナ君って金髪が地毛なの?」
「……地毛は淡い茶色」
「それも似合いそう! ハーフか何かなんでしょ?」
「いや、純日本人」

少しだけ、距離を取られたような言い方だった。
これ以上は聞いちゃいけない気がして、私はそっと口をつぐむ。
セナ君も、私の様子に気づいたのか、ほんの少し表情が変わる。

なんだろう。
今の話題、踏み込みすぎたのかな。
さっきまで甘くてやわらかかった空気の中に、ほんの少しだけ知らない壁が立った気がして、胸の奥がちくりとした。

「……やべ、こんな時間じゃん」

気づけば、もう十時過ぎ。

「明日歌番組があってさ、朝からリハなんだよ」

玄関で靴を履きながら、そう言って笑う。

そうだった。
たしか明日は、スターライトパレードと同じ事務所のグループとのシャッフルメドレーがあったり、
いろいろなアーティスト同士のコラボがあったりする長時間音楽番組の日だった。

「じゃ、戸締りしっかりな」

最後、ちょっと変な空気になったのが少し心に引っ掛かりながら、私はセナ君を見送る。

ドアが閉まった瞬間、まるで世界に一人だけ取り残されたみたいな気持ちになる。
でも、ふと目に入ったキーボードに少しほっとした。

あ。
iPad!

机の上の箱を思い出す。
中身はiPad。
セナ君に「急ぎじゃなければ後にしろ」って言われてたんだった。

そーっと箱を開ける。

Apple製品の箱って、どうしてこんなに宝石箱みたいなんだろう。
開けるだけで、ちょっと特別な気分になる。

ピカピカのiPadを取り出す。
凄いなあ、これでも作曲できちゃうって言ってたよね。
カバーとガラスシート買わないと。
どんなのにしよう……

そう思いながら、天井に向けて持ち上げて、くるっと回して裏面を見る。

Starlight Parade

……の刻印が、そこにあった。

もーーーーーみんな……ずるいよーーーー。

『お前のおかげなんだ。もっと誇れよ』

セナ君の声が思い出される。
ずっと我慢してたのに。
みんながプレゼントしてくれた机。
みんなが選んでくれた椅子。
その真ん中で、機材に囲まれて、
まだかすかに残るセナ君の香りに包まれながら……

私は、こらえきれずに泣いてしまった。

嬉しいとか、恥ずかしいとか、ありがたいとか、いろんな気持ちが一気に押し寄せてきて、もう自分でも何に泣いているのかわからなかった。
ただ、ここに並んでいるもの全部が、偶然なんかじゃなくて、ちゃんと私のこれからに向けて選ばれたものなんだと思ったら、胸の奥がいっぱいになってしまったのだ。