そして迎えた約束の朝。
私は少し緊張しながら、待ち合わせ場所に向かっていた。
スマホで時間を確認すると、ちょうど十時。
少し早すぎたかな、と思ったところで、
「奏!」
名前を呼ばれて顔を上げると、キャップを深く被り、サングラスをかけた男性がいた。
「セナ君! ……っ!? あれ? 髪の毛……黒い!!?」
三日前はたしか金髪だったのに、帽子の下から覗いたのは綺麗な黒髪だった。
「あー、今日から映画の撮影でさ。キンパじゃ合わないって」
そう言ってキャップを外し、前髪をかき上げる。
その仕草が自然すぎて、心臓がぐらっと揺れた。
黒髪のセナ君、ずるい。
金髪の時は眩しくて派手で、まさに絶対的センターって感じだったのに、黒くなるだけで急に距離が近く見える。
なのに、近づいた分だけ余計にどきどきしてしまうから困る。
「車で行くから」
電車じゃなくて車。
そうか、アイドルだもんね。
電車なんて、そう簡単には乗れないよね。
助手席のドアを開けてくれた彼に導かれて、私はおとなしく乗り込んだ。
「ベルト、してな」
セナ君に言われてシートベルトを探すけど、焦ってもたもたしてしまう。
あれ、どこ? え、なんで見つからないの?
助手席なんて家族の車でしか乗らないから、余計に変に意識してしまって手がうまく動かない。
「ぷっ、何やってんだよ。……こーこ」
運転席から身を乗り出して、セナ君がシートベルトを引っ張ってくれる。
その瞬間、ふわっと香った。
レモンみたいで、でもそれだけじゃない。
太陽に溶けるみたいな、明るくてあたたかい香り。
胸の奥がずくんと揺れる。
まるで覆いかぶさるみたいな体勢になって、彼の顔がすぐそこにある。
見慣れない黒髪。
すぐそばで感じる息遣い。
車内の密室感。
近い。
近すぎる。
「はい、できた」
「あ……ありがとう……」
車内で、これから行く店の話をしてくれている。
何階が機材売り場で、店員さんに聞けば早いとか、最初は鍵盤の重さをちゃんと見た方がいいとか。
でも、さっきの距離感のせいで、まったく頭に入ってこない。
同じ空間にいるだけで、香りまで自分のものになってしまった気がした。
……やっぱり、電車集合にしてもらえばよかったかもしれない。
そして冒頭に戻る。
私は少し緊張しながら、待ち合わせ場所に向かっていた。
スマホで時間を確認すると、ちょうど十時。
少し早すぎたかな、と思ったところで、
「奏!」
名前を呼ばれて顔を上げると、キャップを深く被り、サングラスをかけた男性がいた。
「セナ君! ……っ!? あれ? 髪の毛……黒い!!?」
三日前はたしか金髪だったのに、帽子の下から覗いたのは綺麗な黒髪だった。
「あー、今日から映画の撮影でさ。キンパじゃ合わないって」
そう言ってキャップを外し、前髪をかき上げる。
その仕草が自然すぎて、心臓がぐらっと揺れた。
黒髪のセナ君、ずるい。
金髪の時は眩しくて派手で、まさに絶対的センターって感じだったのに、黒くなるだけで急に距離が近く見える。
なのに、近づいた分だけ余計にどきどきしてしまうから困る。
「車で行くから」
電車じゃなくて車。
そうか、アイドルだもんね。
電車なんて、そう簡単には乗れないよね。
助手席のドアを開けてくれた彼に導かれて、私はおとなしく乗り込んだ。
「ベルト、してな」
セナ君に言われてシートベルトを探すけど、焦ってもたもたしてしまう。
あれ、どこ? え、なんで見つからないの?
助手席なんて家族の車でしか乗らないから、余計に変に意識してしまって手がうまく動かない。
「ぷっ、何やってんだよ。……こーこ」
運転席から身を乗り出して、セナ君がシートベルトを引っ張ってくれる。
その瞬間、ふわっと香った。
レモンみたいで、でもそれだけじゃない。
太陽に溶けるみたいな、明るくてあたたかい香り。
胸の奥がずくんと揺れる。
まるで覆いかぶさるみたいな体勢になって、彼の顔がすぐそこにある。
見慣れない黒髪。
すぐそばで感じる息遣い。
車内の密室感。
近い。
近すぎる。
「はい、できた」
「あ……ありがとう……」
車内で、これから行く店の話をしてくれている。
何階が機材売り場で、店員さんに聞けば早いとか、最初は鍵盤の重さをちゃんと見た方がいいとか。
でも、さっきの距離感のせいで、まったく頭に入ってこない。
同じ空間にいるだけで、香りまで自分のものになってしまった気がした。
……やっぱり、電車集合にしてもらえばよかったかもしれない。
そして冒頭に戻る。
