愛なんて要らないから



「じゃあ、また明日くるね」

 帰る時間になった皓太さんに対して、私はどう反応したらいいのか分からなくて、返事をすることはせず薄暗い夕焼けの空を眺めていた。


 明日も皓太さんが会いに来てくれたからといって何も変わることはない。

 ただ彼の時間を奪ってしまっているだけ。

 だけど、来なくていいと言ったところで皓太さんはまた来ると思うから、私からは何も言えなかった。

 それに私が皓太さんを頼るのは、悠のお葬式まで。

 そのうちきっと……皓太さんも私に構うことに飽きて離れてくれる。



「私は、あなたの望む存在にはなれません」

 帰ろうとする彼の背中に思わずそう呟いた。

「俺が望む存在って?」

「……っ、」


 皓太さんはくるりとこちらを向いて、ベッドに近づいてくると、そのまま顔を近付けてきた。

 キス、される……っ。

 咄嗟に顔を背けてぎゅっと強く目を瞑る。


「出来ることなら、あの夜みたいに全部忘れさせてあげたいよ」

 そう言って私から離れた皓太さんは、いつもみたいな余裕は全く感じられない。

 今まで見たことのないくらい切なげな表情をした皓太さんの顔を見て、私はまたこの人を傷つけてしまったのだと胸が痛くなった。

 皓太さんは、そのまま何も言わずに病室の扉を開けて出ていってしまって、扉が静かに閉まる音だけが病室に響いた。