これは果たして恋なのか。

◾︎◾︎◾︎

 “ほんとごめんね。”

 そう言い残して、雛菊は逃げるように部屋から出て行く。

「雛菊!?」

 慌てて叫ぶも、雛菊は振り返らなかった。
 
は、と気づく。

───雛菊を、名前で呼んでしまった。

生意気な弟でいようと決めたあの日、もうひとつ自分に課したルール。

雛菊を、名前で呼ばない。

 自分の中でのルール違反に気づいた瞬間、追いかけようとしていた足が止まる。
 高ぶっていた感情が、スルスルとしぼんでいった。

 そうだ。つい忘れていた。感情的になりすぎた。
 思い返せば、ドライヤーの最中でも何回か呼んだ気がする。

 先程の、雛菊の消え入りそうな声が頭にこびりついている。
 失敗した。一番やってはいけない事をした。

 俺は何度も失敗する。

「…何やってんだ、俺」

その場にズルズル座り込んで、俺は呻いた。

 二年前。雛菊の髪を短くしたのは俺だ。雛菊の為になったことのはずなのに、俺の勝手な後悔を押し付けてどうする。

謝らないと。傷つけてしまった謝罪をしなければ。

分かっているのに、俺は動けなかった。

────この臆病者が。
 
 あの時の後悔、さっきの後悔。俺は何も変われていない。何も活かせていない。

いちばん大切な人を守る。

なぜそれだけのことが、こんなにも難しいのだろう。