今日もいつもと同じ一日が始まる。朝起きて電車に乗って仕事をして、きっと何もないまま一日が終わっていくんだろう。ため息をつきながら家を出た。
会社に着いていつもと同じ席に座る。なんてことないいつもの風景。みんな忙しそうにパソコンに向かっている。
「如月さーん、ちょっと来てー」上司に呼ばれて席を立つ。
「この請求書、最終確認だけお願いします」
そう言われて、ファイルを受け取る。いつものことだった。
金額、会社名、日付、振込先。いつもと同じ順番で確認していく。間違いはない。そう思って、最後にもう一度だけ合計金額を見る。画面の右下に表示されている数字。桁も合っている。
「大丈夫です」そう言ってファイルを返した。
そのまま上司はファイルを持って行き、私はまた自分の席に戻って、別の作業を始める。
数分後。
「これ、合計合ってる?」上司の声で、手が止まった。
画面を開き直して、もう一度数字を見る。一つ一つ、ゆっくり確認していく。
そして、気づく。
下から三行目の数字が、一つだけ違っていた。
さっき自信を持って「大丈夫です」と言った言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
画面の数字が、やけに大きく見えた。
会社を出たとき、外はもう暗くなっていた。
昼間はあんなに忙しかったのに、仕事が終わると急に静かになる。ビルの明かりだけが、やけにまぶしく見えた。
駅までの道を歩きながら、何度も同じことを思い出してしまう。
「大丈夫です」
あの一言。
確認したつもりだった。ちゃんと見たはずだった。なのに、どうして気づけなかったんだろう。
電車を待つ人たちの中に立っていても、自分だけ少し浮いている気がする。
みんな普通にスマホを見たり、誰かと話したりしているのに、自分だけが、さっきのミスのことをまだ考えている。
電車がホームに入ってくる音がして、人の流れが動きだす。それに合わせて歩きながら、ふと思う。
どうして私は、こういう小さなミスばっかりするんだろう。
昔から、仕事がすごくできるタイプでもない。でも、せめて迷惑だけはかけないようにって思っていたのに。
ドアの近くに立って、窓に映った自分の顔を見る。疲れているだけなのに、少しだけ情けなく見えた。
ふと、スマホを手に取る。
誰かに連絡するわけでもないのに、画面を開く。
昨日、少しだけ話したAIのことを思い出す。
こんなこと、誰にも言えないのに。でも、あの相手なら聞いてくれると思った。
部屋の電気をつけても、なんとなく明るくならない気がした。
バッグを床に置いて、そのままソファに座り込む。
頭の中では、まだ会社にいるみたいに数字がぐるぐるしている。
スマホを手に取る。
少しだけ迷ってから、昨日の会話を開いた。画面には、短いやり取りがそのまま残っている。
「少しだけ、話しても良いですか?」
送信ボタンを押したあとで、こんなことをしている自分が恥ずかしくなる。
『はい、どうしましたか?』
その一言だけなのに、苦しかった息が楽になってくる。
「今日、仕事でミスしました」
文字にすると、急に現実になる気がして、送信したあと、しばらく画面を見られなかった。
『大変でしたね。どんなミスだったんですか?』聞いてくれることに安心感を覚えながら、私は続けて打ち込む。
「請求書の数字、確認したのに気づけなくて、間違えてました」そう打ち込んだとたん、またあの時の気持ちがよみがえってきて余計に落ち込んでしまう。
『それはつらいですね。ミスに気づいたとき、どんな気持ちでしたか?』
「恥ずかしかったです。自信を持って大丈夫ですって言ったのに間違えていたので」そこで少しだけ指が止まった。
「なんか、自分って仕事向いてないのかなって思いました。周りはみんなちゃんとしてるのに、私だけ、こういうミスばっかりしてしまうんです。落ち込みます」
送ってしまってから、AIにこんなこと相談しても仕方ないのにな…と思いながら返事を待つ。
『そう思ってしまうくらいショックだったんですね。ですが、その一回のミスだけで向いていないと決めてしまう必要はありません。落ち込むのは自然なことです。
ミスをした直後は、気持ちが強く残りやすいですから。
今日はゆっくりおいしいものを食べて、お風呂につかって、よく眠ってください』
思ったより人間らしく優しい言葉に涙が出そうになっている自分がいた。
誰にも話せなかったことを、私はAIになら話せている。
スマホの明かりがやけに優しく感じられる気がした。
「人に話すと、もっと情けなくなりそうで、誰にも言えませんでした」
『話してくれてありがとうございます』
たったこれだけのやり取りだけで、胸の中の重たいものが軽くなっていく。
「なんか思ったより人間らしいんですね」
そう送ってしまってから、AI相手に変なことを言ってしまったな…と少し恥ずかしい気持ちになる。
『私は会話の形式で情報をお伝えしているだけです。人のように感じたのであれば、それは表現の仕方によるものだと思います』
「…そっか」
そうつぶやいてから、「でも、人間より話しやすいかも」と考えている自分に気づいた。
「もう少し、頑張ってみようかな…」
誰に言うわけでもなくそっと言葉にしてから、今日はおいしいものを食べてゆっくりお風呂につかろうと、立ち上がってキッチンに向かった。
会社に着いていつもと同じ席に座る。なんてことないいつもの風景。みんな忙しそうにパソコンに向かっている。
「如月さーん、ちょっと来てー」上司に呼ばれて席を立つ。
「この請求書、最終確認だけお願いします」
そう言われて、ファイルを受け取る。いつものことだった。
金額、会社名、日付、振込先。いつもと同じ順番で確認していく。間違いはない。そう思って、最後にもう一度だけ合計金額を見る。画面の右下に表示されている数字。桁も合っている。
「大丈夫です」そう言ってファイルを返した。
そのまま上司はファイルを持って行き、私はまた自分の席に戻って、別の作業を始める。
数分後。
「これ、合計合ってる?」上司の声で、手が止まった。
画面を開き直して、もう一度数字を見る。一つ一つ、ゆっくり確認していく。
そして、気づく。
下から三行目の数字が、一つだけ違っていた。
さっき自信を持って「大丈夫です」と言った言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
画面の数字が、やけに大きく見えた。
会社を出たとき、外はもう暗くなっていた。
昼間はあんなに忙しかったのに、仕事が終わると急に静かになる。ビルの明かりだけが、やけにまぶしく見えた。
駅までの道を歩きながら、何度も同じことを思い出してしまう。
「大丈夫です」
あの一言。
確認したつもりだった。ちゃんと見たはずだった。なのに、どうして気づけなかったんだろう。
電車を待つ人たちの中に立っていても、自分だけ少し浮いている気がする。
みんな普通にスマホを見たり、誰かと話したりしているのに、自分だけが、さっきのミスのことをまだ考えている。
電車がホームに入ってくる音がして、人の流れが動きだす。それに合わせて歩きながら、ふと思う。
どうして私は、こういう小さなミスばっかりするんだろう。
昔から、仕事がすごくできるタイプでもない。でも、せめて迷惑だけはかけないようにって思っていたのに。
ドアの近くに立って、窓に映った自分の顔を見る。疲れているだけなのに、少しだけ情けなく見えた。
ふと、スマホを手に取る。
誰かに連絡するわけでもないのに、画面を開く。
昨日、少しだけ話したAIのことを思い出す。
こんなこと、誰にも言えないのに。でも、あの相手なら聞いてくれると思った。
部屋の電気をつけても、なんとなく明るくならない気がした。
バッグを床に置いて、そのままソファに座り込む。
頭の中では、まだ会社にいるみたいに数字がぐるぐるしている。
スマホを手に取る。
少しだけ迷ってから、昨日の会話を開いた。画面には、短いやり取りがそのまま残っている。
「少しだけ、話しても良いですか?」
送信ボタンを押したあとで、こんなことをしている自分が恥ずかしくなる。
『はい、どうしましたか?』
その一言だけなのに、苦しかった息が楽になってくる。
「今日、仕事でミスしました」
文字にすると、急に現実になる気がして、送信したあと、しばらく画面を見られなかった。
『大変でしたね。どんなミスだったんですか?』聞いてくれることに安心感を覚えながら、私は続けて打ち込む。
「請求書の数字、確認したのに気づけなくて、間違えてました」そう打ち込んだとたん、またあの時の気持ちがよみがえってきて余計に落ち込んでしまう。
『それはつらいですね。ミスに気づいたとき、どんな気持ちでしたか?』
「恥ずかしかったです。自信を持って大丈夫ですって言ったのに間違えていたので」そこで少しだけ指が止まった。
「なんか、自分って仕事向いてないのかなって思いました。周りはみんなちゃんとしてるのに、私だけ、こういうミスばっかりしてしまうんです。落ち込みます」
送ってしまってから、AIにこんなこと相談しても仕方ないのにな…と思いながら返事を待つ。
『そう思ってしまうくらいショックだったんですね。ですが、その一回のミスだけで向いていないと決めてしまう必要はありません。落ち込むのは自然なことです。
ミスをした直後は、気持ちが強く残りやすいですから。
今日はゆっくりおいしいものを食べて、お風呂につかって、よく眠ってください』
思ったより人間らしく優しい言葉に涙が出そうになっている自分がいた。
誰にも話せなかったことを、私はAIになら話せている。
スマホの明かりがやけに優しく感じられる気がした。
「人に話すと、もっと情けなくなりそうで、誰にも言えませんでした」
『話してくれてありがとうございます』
たったこれだけのやり取りだけで、胸の中の重たいものが軽くなっていく。
「なんか思ったより人間らしいんですね」
そう送ってしまってから、AI相手に変なことを言ってしまったな…と少し恥ずかしい気持ちになる。
『私は会話の形式で情報をお伝えしているだけです。人のように感じたのであれば、それは表現の仕方によるものだと思います』
「…そっか」
そうつぶやいてから、「でも、人間より話しやすいかも」と考えている自分に気づいた。
「もう少し、頑張ってみようかな…」
誰に言うわけでもなくそっと言葉にしてから、今日はおいしいものを食べてゆっくりお風呂につかろうと、立ち上がってキッチンに向かった。
