兄とあたし

 18歳の春にマサに出会った。
 マサはホストをしていると言い、このまま、お店に連れていかれるのかと思っていたら、挨拶と連絡交換だけで終わった。
 あたしは、その日から、眠れない時とかに、少しだけマサと電話するようになった。
 それでも、マサはイヤな声1つせず、話してくれ、お店にも呼ぶことしなかった。
 この関係が、何ヶ月も続いた、ある日、同僚から、ホストクラブ行きたい。と言われ、マサのお店に連れて行った。
 最初、マサは、あたしが来るのは冗談だろう。と思っていたらしい。
 マサのお店に着いて、降りてきてもらうように頼んだとこで、本当に来たんだ!と思ったらしく、迎えに来てくれた。
 お店に入ると、カウンターがメインで、BOXが1つあっただけだった。
 あたし達は、BOX席に座らせてもらった。
 マサは、ずっと居てくれて、色んな人が名刺持って話しに来てくれた。
 と言っても、小さなお店だったから、全員で5人くらいしかいなかったけど。
 お会計の時、知らなくてキャッシャーに行こうとしたら、友達が、会計は席でするの。と教えてくれた。
 ホストの金額なんて分からなかったから、足りるように多めに持って行ってたから、お会計を見て安いと思った。
 次の日も、マサのとこに行った。
 この日は、カウンター席だった上に、昨日居なかった人が着いてくれた。
 その人は、自分の名前言った後に、あたしの名前を聞いて、驚いていた。
 何にそんなに驚いたのか分からなくて、きょとんとしていたら、理由を話してくれた。
 「驚くと思うけど、俺、えりちゃんの兄なんだ。」
「え?!
お兄ちゃん…?
あたしにお兄ちゃんが居たの?」
「そうだよ。
えりって名前も、俺が付けた。」
「そうだったの?!」
「うん。
俺、妹が出来て、ホントに嬉しかった。
毎日、ミルク飲ませたり、離乳食食べさせたり、色々してた。」
「何で、お兄 ちゃんなのに、一緒に住んでないの?」
「それは、父さんと母さんが離婚したから。
原因は、母さんの浮気。
父さんは、えりと俺を引き離すべきじゃない!って言ってたんだけど、母さんが無理矢理えりを連れて行ったんだ。
新しいお父さんに虐待されるかも!って父さんは言っていたのに…。
えり、大丈夫だった?」
 兄にそう言われて、あたしは押し黙った。
 兄は、あたしの反応を見て、申し訳ない、と言った顔をした。
 「やっぱり、虐待されてたか…。
何をされた?」
 あたしは、された事を全て話した。
 この時、あたしは、18歳。
 それなのに、義父は何かと理由を付けて、あたしと一緒にお風呂に入っていた。
 その事も兄に話した。
 兄は、烈火のごとく怒り、もう少しで、大声を上げあたしの家に行って、義父を殺しそうな顔をしていた。
 「えり、ごめんな。
俺が早くえりを探していたら…。」
「大丈夫だよ。
お兄ちゃんに会えたし。」
「これからは、俺が守るから。
家に居たくないなら、俺のとこに来ればいい。」
「分かった。」
「お金もキツくなったら相談しに来い。」
「分かった。」
 安くても、毎日通っていたら当然、お金が足りなくなって、あたしは夜の世界の人になった。
 勿論、兄には内緒で。
 だけど、お金が続くことに疑問になった兄は、問い詰めることを決めていた。
 「えり、お金はどうしてる?
こう毎日来れる仕事してないだろ?」
 あたしは、正直に答えた。
 どこで働いてるかを話した瞬間、左頬がジンジンと痛み出した。
 そう。
 あたしは、兄に叩かれたのだ。
 「えり、ちょっと来い!」
 あたしは、外に出された。
 「そんな軽々しく言う仕事じゃない!
直ぐに辞めろ!」
「でも、通えなくなる…。」
「金に困ったら、相談してこい!って言ったよな?
いくら欲しい?
夜の仕事したいのか?」
「うん。
したい。」
「分かった。
キャバなら許してやる。
店は、俺が紹介する。
それでもキツくなったら、俺に言ってこい!
分かったな?」
「はい…。」
「じゃあ今から、店に電話して辞めろ。
俺の前で電話する!!」
「はい!」
 あたしは、すぐに電話して辞めた。
 「まったく…。
今日の会計分はあるのか?」
「ある…。」
「生活費は?」
「ない…。」
「はぁ…。
とりあえず、10万渡してやる。
無駄使いすんなよ?」
「はい…。」
「じゃあ、店に戻るか。」
「はい…。
お兄ちゃん、ごめんなさい。」
「二度とするなよ?」
「はい。」
 次の日、兄は早速お店紹介してくれた。
 「ここにある店は大丈夫だから。
好きなとこ選べ。」
「分かった。」
 あたしは、その中から、彩華(あやか)を選んだ。
 兄は、早速、彩華の社長に連絡してくれて、面接にも着いてきてくれた。
 社長は、とてもいい人で、兄の妹ならといい条件で働かせてもらうことになった。
 メイクの勉強も彩華で教えてもらえることになり、初出勤は明日からということで決まった。
 お店からの帰り、兄から言われた。
 「仕事終わったら、俺かまぁくんに電話してこい。
迎えには行けれんけど、電話してたら変なのに捕まらんから。
分かったな?」
「はい。」
 今日は、そのまま、マサのとこに行った。
 兄は、マサに話しかけ、あたしの事を頼んでいた。
 「えり、なんで早く俺に相談してこんかったん?
俺も心配だから、電話して。」
「分かった。
マサって、まぁくんって呼ばれてるの?」
「そうだよ。
マサって呼ぶのえりくらい。」
「そうなんだ。」
 この日くらいから、兄の口癖は、まぁくんとえりが結婚してくれたら、俺は何も言うことないのにな…。になった。
 それだけ、マサとあたしはお似合いだったらしい。
 マサとは、いつも、カラオケでカズンさんの冬のファンタジーを歌い、兄とはMr.Childrenさんの君が好きを歌った。
 兄は、お酒に強くて、潰れたとこ見たこと無く、あたしも兄に似たのか、お酒が強かった。
 だから、彩華でも重宝されていた。
 仕事が終わって、マサのとこに行く間、ずっと兄かマサと電話しながら、マサのとこに通った。
 電話中にナンパされかけたら、電話の向こうで、兄とマサのお怒りの声をいただき、マサの所まで行くと、2人から説教された。
 「お前は、ナンパされすぎ!!
たばこの火をくれませんか?って、それナンパだから!
駅までの道教えて貰えませんか?もナンパ!
もし、ナンパに捕まって、山に連れていかれて、そこに置いて来られたらどうする?
俺もまぁくんも迎えに行けれんで?!
どこの山に居るの?分かんない。これで迎えに行けるんか?」
「行けれません…。」
「ったく、もうちょっと、危機感ってものを身につけなさい!!」
「はい…。」
「愛情貰ってないというのは、こんなのも分からんのか?
それなら、俺が愛情をやる!!
いーーーーっぱいやる!!
でも、お前は、愛情ってものを知らんから、愛情が伝わらんかもしれん。
これだけは覚えとけ!
俺とまぁくんが、あげてるのが愛情だ!」
「分かった。」
 次の日も、電話しながら、マサのとこに行った。
 「お兄ちゃん、来たよ。」
「おう!
妹!
今日は、ナンパされんかったな。」
「うん。
大丈夫だった。」
「よしよし!」
 兄は、自分で宣言した通り、毎日あたしに愛情をくれた。
 こんな日が来るなんて思わなかった。
 あたしは、幸せを感じていた。
 「お兄ちゃん、あたし今が1番幸せ!」
「そうか。
それは良かった。
ちゃんと、俺とまぁくん の愛情が伝わってるってことだな。」
 あたしは、やっと、幸せになっていい時が来たんだと思っていた。
 こんな日がずっと続いて欲しかった…。
 ある日、兄に言われた。
 「えり、一緒にマスターの今後と、街の移り変わりを見ていこうな。」
「うん。」
 数日後のことだった…。
 兄が死んだ。
 自殺だった…。
 あたしの頭の中では、兄との最後の会話がグルグルと回っていた。
 途方にくれていた時、夢に兄が出てきた。
 あたしは、兄が死んだ理由は自分にあると思っていた。
 面倒くさくなったんだと…。
 だから、兄に会って、最初の言葉は、ごめんなさい。だった。
 兄は、なんで、ごめんなさい?と聞いてきた。
 兄が死んだのは、自分のせいだから。と答えた。
 「この世に、妹のせいで死ぬやつなんか居ない。
俺が死んだのは、えりのせいじゃない。
えり、俺はこれからもお前を助けていく。
えりが嫌がっても、守っていくから。
えり、愛してるよ。
それだけは、分かってくれ。
また、夢に出てくるから、心配すんな。
可愛い俺の妹…。」
「お兄ちゃんっっ!!
ヤダよぉ!
行かないで!」
 あたしは、泣きながら叫び、起きた。
 起きたあたしの頬には涙のあとがあった。
 あたしは、夜の街を出た。
 でも、兄の言葉が忘れなくて、夜の街を出ては戻ってを繰り返した。
 もしかしたら、兄に会えるかも…。なんて思いながら…。
 でも、街で兄には会えなかった。
 その度に、兄が居ない現実を見させられた…。