みんなに追いついて、ついていくと少し奥まった場所に【神田珈琲店】と看板がついたヨーロッパ風のお店が建っていた。
少し色あせたレンガにアンティークな机とイスはおしゃれで近寄りがたい雰囲気があるけど、アースカラーでまとめられて温かみのある外装だった。
「いらっしゃいませ……って、晴人」
「八人でテラス席お願いできる?」
「かしこまりました」
一瞬、身内に向ける目をした店員さんは、神田くんがお客さんだとわかると接客モードに切り替えた。
ご両親が経営してるお店って言ってたし、お兄さんだったりするのかな。
案内されたテラス席は、最大で十二人が座れるみたい。
外ではあるけど、席は三人がけのソファー。こういうの、ガーデンソファーって言うんだっけ。
「ご注文がお決まりになりましたらこちらのベルでお申し付けください。ではごゆっくりどうぞ」
店員さんがお水を持ってきてくれたので、立ったままだったわたしたちは、いそいそと席についた。
店員さんが二つあったテーブルをつなげてくれたから、四人ずつとかで別れずに全員が同じ席につけた。
親睦会なのにテーブル別れちゃったら席替えとかしないといけないからね。
ソファーに二人ずつ座り、メニューは二人で見る。わたしの隣には秦くんが座ってくれた。
まだみんなの輪に入るのは緊張しちゃうからわたしはありがたいけど、秦くんはいいのかな。友達と座らなくて……。
「……? 俺は空のことも友達だと思ってるけど……」
キョトンとした顔でそう返された。
「あたしも空ちゃんのこと友達だと思ってるよ!」
向かいがわに座った阿部さんもそう言ってくれた。
「ありがとう……そう言ってもらえて、うれしい」
小学校では友達がいなかったから、なんか照れちゃうな。
「…………」
二人と話していると、阿部さんの隣に座っている神田くんから、視線を感じた。
もしかして神田くんはわたしのこと知ってるのかな。あのときは孤立してたから、逆に目立ってたのかも。
「えっと、なにか……?」
「ううん。さ、注文しよう」
「あたしもう決めた!」
わたしはどうしよう……。
どれも美味しそうだから迷っちゃう。
ふわとろオムライス(ビーフシチューがけ)にするか、ベーグルサンドセットにするか……。
むむむむ……。
よし、オムライスにしよう。
ベーグルサンドは次来たときに食べればいいよね。
「決まった?」
「うん。秦くんは?」
「俺はロコモコにしようかな」
「了解。どう? そっちは決まった?」
「オッケー」
神田くんはベルを鳴らして店員さんを呼び、慣れた様子で八人分の注文をした。
「そうだ、空ちゃんも外部生なんだよね? 小学校ってどこ行ってた?」
注文が終わってやることがないから、とみんなで話しているとき、阿部さんがそう聞いてきた。
反射的に神田くんを見ると、神田くんも聞く姿勢になっている。
「あ、青葉小だよ……」
「……!」
神田くんが水の入ったグラスを落としそうになった。同じ学校の人がたまたま私立校で同じクラスになるなんて、さすがにビックリだよね。
「うそ!? 同じ小学校なの!?」
「そうみたい。でも、同じクラスにはなったことないと思うよ」
なってたら絶対わかるから。卒業する前までは黒髪だったとしても、神田くんはイケメンだから印象に残りやすいと思う。
「オレが一方的に知ってるだけかな。牧野さんの幼馴染だった男子と昔はよくつるんでたから」
神田くんの言葉に体がビクリと震えた。
わたしは小学二年生のときに、幼馴染を失った。
◇◇◇
四年前。
わたしはいつも通り、幼馴染の水谷康太くんと一緒に帰るために康太くんの教室に向かっていた。
康太くんは友達と話してからわたしと帰るから、いつも少し遅い。
あの日、教室には珍しく結構な人がいたと思う。
「お前牧野のこと好きだろー!」
「ほらほら、言っちまえよ」
締め切られたドアを少し開けたとき、康太くんが友達にからかわれていたのが聞こえた。
わたしは少し緊張したけど、信じてたんだ。康太くんがわたしを、「友達として好きだ」と言ってくれるって。
でも、聞こえてきたのはそうじゃなかった。
「はあ? あんなトロい女、俺が遊んでやらなきゃ誰が口きくんだよ。むしろキライだわ」
「…………!」
ショックを受けたわたしは手に持っていたバッグを落としちゃって。それで、立ち聞きしてたってことがバレたんだ。
翌日から、わたしはクラスメイトや他のクラスの子たちから避けられるようになった。
康太くんは学年一モテる男の子だったから、そんな人にキライとかトロいとか言わせたわたしとは、きっと関わりたくないのだろう。
神田くんがあの場にいたかはわからないけど、康太くんのお友達ならあの事件については知っているはず。
わたしがそのあと半年、三年生に上がるまで登校できなくなったことも。
◇◇◇
過去のことが頭をよぎり、震えてしまったわたしだけど、秦くんや阿部さんに背中を撫でてもらって、大分落ち着いた。
「ごめん、牧野さん。大丈夫?」
「平気だよ。空気悪くしちゃってわたしこそごめんね」
楽しい親睦会が私のせいで……。
「空、大丈夫。この程度、俺がやらかしたときの空気に比べれば霞みたいなものだから」
秦くん……多分それはないよ。
でも……
「ふふっ、ありがとう」
空気を軽くしようとしてくれたのかな。
「うん。大丈夫だよ」
大丈夫だよ、が「気にしないで」じゃなくて、わたしを落ち着けるために言ってくれたように感じた。
どうして、こんなわたしに親切にしてくれるんだろう。
「お待たせしました。ふわとろオムライスとパンケーキになります」
「はーい!」
「ありがとうございます」
店員さんが料理を持ってきたので、一瞬浮かんでしまったネガティブな考えは振り払った。
「ふう……食べた食べた」
「もうお腹いっぱ〜い」
わたしの目の前で、神田くんと阿部さんがお腹をさすっている。
神田くんは最初ベーグルサンドセットを食べてたんだけど、足りないって言って追加でホットドッグ食べてたんだよね。
阿部さんもイチゴとホイップクリームが乗った三段パンケーキにプラスして、ソーダフロートとかプリンアラモードとか食べてたから……。
男の子でこれから成長期の神田くんはともかく、わたしよりも小柄な阿部さんのどこにあれが入ったんだろう。不思議だ……。
「とりあえず、各自自分の食べた金額払うってことで大丈夫?」
「オッケー。あたし、いくらになるんだろう」
わたしはオムライスとオレンジジュースを頼んで、千八百円。今持っている分で十分足りる。
今日みたいなことは全く予想してなかったけど、お年玉貯金に回しておいてよかった。
代表して払う神田くんにお金を渡して、帰宅の準備をはじめた。
