恋愛初心者①〜落とし物から始まる恋〜





「おお、みんな席ついてるな。さっそく、我々の自己紹介から始めよう」
 そう言った先生はもう一人の先生と一緒に教卓の前に立った。


「担任の羽場栄一郎だ。羽場先生でも、栄一郎先生でも、好きに呼んでくれ」
「副担任の高橋裕子です」

 二人の先生は黒板に名前を書いて自己紹介をした。
 副担任の高橋先生は口数が少ないみたいで、名前以上のことは言わなかった。


 担任の羽場先生はこのあとわたしたちにも自己紹介をさせるからと、好きな食べ物や担当教科、どこの部活の顧問かとかいろいろ教えてくれた。美術部らしい。
 「ちなみに独身だ」とお茶目にウインクまで。


 誰かが言った「中学生はだめだよー」に対しても「安心しな、好みは年上だ」と返していた。

 フレンドリーな先生ってことで、いいのかな?


「そんじゃ、出席番号一番から順に自己紹介な」
「はーい! 一番の阿部茜です! 中等部からAクラスに入れました! よろしくお願いします!」
 赤茶色の髪をパッツンボブにしている、ハキハキしていて明るそうな子だ。

 声を聞いた感じ、さっき羽場先生をからかったのは阿部さんで間違いなさそう。



「二番の神田晴人です。小学校は公立で、青葉小ってとこ行ってました」

 ガタン!


「牧野? どうしたんだ?」
「い、いえ……すみません……」

 思わず立ってしまった。だって、びっくりして。


 青葉小というのは、わたしが通っていた学校。正式名称は青葉市立青葉第一小学校だけど、みんな青葉小って呼んでるの。

 あんな子、いたっけ……。

 髪を金に染めた、見ようによってはチャラそうな人。でも、Aクラスに入れるくらいの学力は持ってる。神田晴人くん……。



 わかんないな。
 三クラスだったけど、一回も同じクラスなったことない人けっこういたから。


「えーー……三番は早退で四番は体調不良……。次、五番よろしく」
「はい!」




 そして、わたしの番が回ってきた。
 転ばないように気をつけて、黒板の前に立つ。

「出席番号十番の、牧野空です。よろしくお願いします」
 ゆっくりになっちゃったけど、なんとか噛まずに言えた!


 でも頭を下げたときに教卓に腰をぶつけちゃった……。恥ずかしいっ……!

「すまん、ズラしときゃよかったな。大丈夫か?」
「は、はい……こちらこそすみません……」
 羽場先生にも気をつかわせちゃうなんて、失敗したなぁ……うまくいったと思ったのに。

 でも、小学校と違って笑われることはなかった。
 ほっ。





「みんなー! クラスチャット作ろ!」
 学級会が終わり、阿部さんがスマホを掲げてそう言った。
 神田くんや他のクラスメイトも同意し、わたしもクラスチャットに入った。

 ちなみに、秀英学園はスマホの持ち込みOK。
 授業中にスマホで調べないといけないこととかあるみたいで、電源切らなきゃいけない決まりもない。


 入学前にノートパソコンは買ってねーって言われてたけど、スマホも必要なんてどんな授業するんだろう。

 小学校の授業でタブレットを使ったことはあるけど、導入が他の学校よりも遅かったみたいで、わたしは六年生の一年間しか使ったことがない。


 パソコンも使うの初めてだから、最初の授業では電源の入れ方から教えて欲しいかも。

 シュポンと音がして、阿部さんからメッセージが届いた。意外とうるさいから消音モードにしておこう。


『みんなよろしくー!』

 阿部さんはまだ目の前にいるけど、わたしも『よろしくお願いします。』と送った。

 秦くんや神田くん、みんなも一斉に送るからまだ消音モードにしてなかった人の通知音がすごいことになってた。


 秦くんが今いない二人のことも招待して、A組のクラスチャットは十分も経たずに全員揃った。
 人数が少ないのもあるかもだけど、結束力が高いんだな。

 自己紹介で失敗したわたしも、自然に輪に入れた。まるで、そこにいるのが当たり前みたいに。

 自然に口角が上がる。


「? 空ちゃん? どうしたの?」
 突然笑ったわたしを不思議に思ったのか、阿部さんが首をかしげた。


「いえ、うれしいなって」
「…………! えへへ、あたしもうれしいよ!」

「空ちゃん、クラスメイトだし、敬語なしで話そうよ」
「いいね、俺に対しても敬語は取ってほしいな」
「は、はい! じゃなくて……うん!」


 わたし、受験がんばってよかった。

 秀英学園に入学できてよかった。


「そうだ! せっかくだし、このあとみんなでお昼ごはん食べに行かない?」
「あ、オレいいとこ知ってるよ」

 阿部さんの提案に神田くんが同意し、他のクラスメイトたちも「行こう行こう!」と準備しはじめた。



「空ちゃんはどうする?」
「い、行きたい……!」
 今日は入学式だから予定入れてなかったし、何時間でも!

「俺も行くよ」
 その場にいた全員で、神田くんおすすめのレストランに行くことになった。


「晴人くんのオススメってどこ?」
「すぐそこだよ。オレの両親がやってるんだ」



 …………。
 やっぱりわからないな……。

 神田くん、イメチェンしたのかな。金髪で頭よくて、ご両親が飲食店のオーナーさんなんて、話題にならないわけないもんね。



「空、大丈夫?」
「え?」

「体調悪いなら一緒に帰ろうか?」
 秦くんの声に我に返ると、もうみんなは遠くに行っていた。



「あ、大丈夫! ちょっと考えごとしてて」
「そう? でも、無理はしないでね」

 優しい……!
「ありがとう、心配してくれて」
「うん」


 神田くんたちは、途中でわたしたちがいないことに気づいて待っていてくれた。

 考えごとは、一人のときにしよう。