恋愛初心者①〜落とし物から始まる恋〜

「へえ、外部入試で入ったんだ。倍率高くて大変だったでしょ」
「はい。でも、一回入るって決めたのでがんばれました」


 同じ列に並んでいるからそのままの流れで秦くんと喋りながら待つことになった。

 秦くんは本当は幼馴染と来る予定だったんだけど、その子が風邪引いちゃったっていうので一人で来たみたい。
 初対面のわたしにもすごく親切にしてくれた。


 秦くんは初等部からいる内部進学の人で、わたしが学校のことを聞くと色々教えてくれた。

 なんの枠で入学したか聞かれて、特別推薦枠だって答えたら驚かれた。目を丸くしているの、かわいいって思っちゃったら失礼かな。



「それじゃあ、俺とはクラスメイトだと思うよ」
「ほんとですか! 嬉しいですっ……!」

 知り合いではなかったけど、話したことある人が一緒なのは心強いな。
「うれしい……? ありがとう」




 そのあと受け付けを挟んで雑談する感じではなくなっちゃったけど、わたしと同じA列に案内された秦くんは小さく手を振って笑ってくれた。

「A列全員揃いました。ホールに案内します」
 少し待つとそんな声が聞こえてきて、スタッフの腕章をつけた男の人が列の先頭に立った。

 青いスカーフだから確か……二年生かな?
 六年生で学校見学に行ったとき、今は三年生が赤で、二年生が黄色で、一年生が青って聞いて、そこから年度が変わったから……二年生であってるね。



 他の列はまだ揃ってないみたい。
 昇降口で上靴に履き替えて、案内されたのは大きなホール。
 地元のコンサートホールかと思ったくらい。椅子もパイプ椅子じゃなくて、ホールの椅子。

「ハガキに書いてある番号順に座ってください。こちらから一番です」
 えっと、わたしの番号は……A-10だ。


 わたしの後ろに並んだ子は番号が一番だったらしく、壁側の席に座った。
 わたしは通路側みたい。

「えー。これから始まる入学式でご協力いただきたいことがいくつかあるのでご説明します」

 二年生スタッフさんの説明は、多分公立の学校と同じかな。

 クラス、出席番号、名前を読み上げられるから、自分の名前が呼ばれたら返事をして立つ。
 それで、一クラス呼び終わるごとに「着席」と声がかかるから、それに従う。

 あとは「新入生起立」とか、「ご起立ください」で立ったり返事したり国歌斉唱をするだけ。



 うん、大丈夫。覚えたよ。
 入学祝いに買ってもらった腕時計の針はまだ十時前を指してる。

 席から立たなければ好きにしていいと言われたので、A-09でわたしの隣になった秦くんとしりとりをして待った。






 すごい強かった……。
 同い年とは思えないくらい単語のバリエーションが豊富で。

 初等部にいたときは、しりとり対決で負けなしだったんだって。
 先生にも負けたことがないらしい。

 わたしがしりとりで負かされてる間に他の列の人たちも到着したみたい。
 時計を見ると十時半ちょうど。


 入学式が始まった。
 国歌斉唱や来賓紹介、祝辞紹介、校長先生の挨拶のあとは、生徒会長の挨拶。

「新入生のみなさん、こんにちは。中等部生徒会長の安西です。ご入学おめでとうございます。堅苦しい話は僕も疲れてしまうので、とりあえず一つだけ」

 いろんな先生方の前でそう言いきった安西先輩に思わず笑いが溢れた。
 周りの人たちもわたしと同じだったみたい。
 クスッと笑っているのが聞こえてきた。


「勉強は大事ですが、ここには勉強以外の楽しい行事がたくさんあります。はっちゃけるときは全力で、真面目な場面では気を引き締めて、中学生活を楽しんでください」

 礼をした安西先輩に大きな拍手が送られる。
 もちろん、わたしも手が痛くなるくらい拍手したよ。



 私立の中学で生徒会長だからもっとお堅い人だと思ってた。
 秀栄学園は毎日十時間以上勉強してやっと入れるくらいのレベルの高い学校だけど、だからこそ自由があるのかな。

 安西先輩が舞台袖に消えると新入生代表の挨拶や呼名が入り、入学式は終わりだ。
 順番に退場になったので、わたしを最後尾にしてA列が退場。


 入学式のあとは各教室に行って学級会だって。
 自己紹介とかするのかな。
 うう……緊張する……。

 わたし、小学生のときの自己紹介で思いっきり噛んで恥ずかしい思いしたんだよね……。
 少人数クラスには入れるって言われたけど、全部でどのくらいいるんだろう……。二十人くらいかな。


 二十人の視線が自分に……そ、想像しちゃだめ! もっと緊張しちゃうでしょ!

「到着しました。ここがみなさんの教室になります。クラスはA。担任と副担任の先生はこれからいらっしゃいますので自分の名前が書かれた席に座って待っていてください。では、よい中学生活を」

 わたしたちを案内してくれた二年生の先輩は一礼して来た道を戻っていった。

 ハガキの番号はA-10。

 先頭のアルファベットがクラスで、数字が出席番号ってことかな。

 わたしは最後尾だったからこのクラスは十人……。
 よかったぁ……。そんなにいっぱいいなくて。


 教室は三十人学級と同じくらいの広さで、小学校のときに使っていたものより大きい机が十台並んでいた。


 面積は教卓くらいかな?
 椅子は長く座っても疲れなさそうなクッション付きのオフィスチェア。

 ……学校、だよね? ここ。

 黒板とかは小学校と同じなんだけど、一人一人に与えられたもののグレードがすごく高い。


 ここ以外の教室は学校見学で見たけど、Aクラスはちょうどワックスがけ直後で見えなかったんだよね。
 自分の名前が書かれた机は窓際の一番後ろ。

 よく陽が当たるから、夏は大変かもしれない。




「隣だね。よろしく、空」
「よ、よろしくね。秦くん」

 こんなかっこいい人が隣で授業を受けるなんて……!
 わたしが席に着いたところで、二人の先生が入ってきた。