ツンデレ男児 ― 本音を出したら、ちゃんと届いた ―

午睡の時間

子どもたちの寝息が、教室の中に静かに広がっている。
私はそっと立ち上がって、廊下に出た。
少しだけ、息をつきたくて。

「どうしたの?」

背後から声がした。
振り返ると、先輩のアイカ先生が壁にもたれていた。

「……ちょっと」

「顔、疲れてるよ」
 
遠慮のない言い方。でも、その分だけ安心する。

「……あの、アイカ先生」

「ん?」

「トワくんのことなんですけど」

名前を出した瞬間、少しだけ空気が変わる。

「どうしたの?」

「いい子なんです。すごく」

言葉を選びながら、続ける。

「周りもよく見てて、気も使えるし」

「そうだね。私から見ても、そんな感じの子かな」

「それで?」

「……ちょっと、気になってて」

優しいのに、引っかかる。
ちゃんとしてるのに、どこか不自然。
そんな違和感。
アイカ先生は、少しだけ目を細めた。

「それ、“いい子”じゃないよ」

「……え?」
 
あまりにもはっきり言われて、思わず聞き返す。

「トワくん」

一拍置いて、

「“いい子やってるだけ”だよ」

心臓が、どくんと鳴った。

「やってる……?」

「そう。周り見て、空気読んで、動いているだけ」

言葉はきついのに、どこか冷静で。

「本当に楽な子って、あんなに気は回らないから」

何も言えなかった。
思い当たることばかりで。

「でも」

私は思わず口を開いた。

「ちゃんと優しいんです」

「うん、あの子は優しいよ」

即答だった。

「でもね」

少しだけ、声が落ちる。

「優しい子ほど、我慢してることが多いの」

言葉が、刺さる。

「……」

「トワくん、“甘えてるとこ”見たことある?」

何も、浮かばなかった。
泣いてるところも、拗ねるところも、誰かに頼る姿も。

——ない。

「……ないです」
 
絞り出すように答える。
アイカ先生は小さく頷いた。

「そうでしょ?」

その一言で、胸の中の違和感が、形を持った気がした。