夕飯の時間
テーブルには、温かい湯気の立つ料理が並んでいた。
「いただきます」
家族四人の声が重なる。
ワクはまだ少し眠そうで、母親にスプーンでごはんを運んでもらっている。
「ほら、あーん」
「……あーん」
ゆっくりと口を開ける姿を見て、父親が少し笑った。
「まだ甘えん坊だな」
「だって眠いんだもんね」
母親も優しく返す。
トワはその様子を、何も言わずに見ていた。
自分でごはんを口に運ぶ。
こぼさないように、静かに。
「トワはほんと、手がかからないよね」
母親がぽつりと言った。
「もう一人でなんでもできるし」
父親も頷く。
「助かってるよ。しっかりしてるな」
「……うん」
トワは、小さく返事をした。
嬉しくないわけじゃない。
ちゃんと、わかってる。
褒められてるってことも、頼りにされてるってことも。
——じゃあ、これでいいんだ。
そう思った。
食事が終わると、トワは自分の食器を流しに運ぶ。
「置いといていいよ」
母親が言う。
「いい」
短くそう言って、水を出す。
泡を立てて、丁寧に洗う。
その横で、ワクがぐずり始めた。
「ねむい……」
「もう寝る?」
母親が抱き上げる。
「トワ、ごめんね。先にワク寝かせてくるね」
「いいよ」
振り返らずに答える。
足音が遠ざかっていく。
リビングに残るのは、トワと父親だけになった。
水の音だけが、静かに響く。
「トワ」
父親が声をかける。
「ん?」
「無理してないか?」
手が、一瞬だけ止まる。
「……してないけど」
「そっか」
それ以上、父親は何も言わなかった。
テレビの音が、少しだけ大きく感じる。
トワはまた手を動かし始めた。
きれいに洗って、きれいに並べる。
それが終わると、タオルで手を拭いた。
「……おやすみ」
「おやすみ」
父親の声を背中で聞きながら、部屋へ向かう。
布団に入ると、天井が少しだけ遠く感じた。
今日のことを思い出す。
園でのこと。
ワクのこと。
母親の言葉。
父親の声。
——手がかからない。
——しっかりしてる。
その言葉が、頭の中に残る。
悪い気はしない。
むしろ、ちゃんとやれてる証拠みたいで。
トワは、ぎゅっと目を閉じた。
——このままでいい。
そう思ったとき、少し変な感じがした。
でも、その理由はよくわからなかった。
わからないまま、トワは静かに眠りについた。
テーブルには、温かい湯気の立つ料理が並んでいた。
「いただきます」
家族四人の声が重なる。
ワクはまだ少し眠そうで、母親にスプーンでごはんを運んでもらっている。
「ほら、あーん」
「……あーん」
ゆっくりと口を開ける姿を見て、父親が少し笑った。
「まだ甘えん坊だな」
「だって眠いんだもんね」
母親も優しく返す。
トワはその様子を、何も言わずに見ていた。
自分でごはんを口に運ぶ。
こぼさないように、静かに。
「トワはほんと、手がかからないよね」
母親がぽつりと言った。
「もう一人でなんでもできるし」
父親も頷く。
「助かってるよ。しっかりしてるな」
「……うん」
トワは、小さく返事をした。
嬉しくないわけじゃない。
ちゃんと、わかってる。
褒められてるってことも、頼りにされてるってことも。
——じゃあ、これでいいんだ。
そう思った。
食事が終わると、トワは自分の食器を流しに運ぶ。
「置いといていいよ」
母親が言う。
「いい」
短くそう言って、水を出す。
泡を立てて、丁寧に洗う。
その横で、ワクがぐずり始めた。
「ねむい……」
「もう寝る?」
母親が抱き上げる。
「トワ、ごめんね。先にワク寝かせてくるね」
「いいよ」
振り返らずに答える。
足音が遠ざかっていく。
リビングに残るのは、トワと父親だけになった。
水の音だけが、静かに響く。
「トワ」
父親が声をかける。
「ん?」
「無理してないか?」
手が、一瞬だけ止まる。
「……してないけど」
「そっか」
それ以上、父親は何も言わなかった。
テレビの音が、少しだけ大きく感じる。
トワはまた手を動かし始めた。
きれいに洗って、きれいに並べる。
それが終わると、タオルで手を拭いた。
「……おやすみ」
「おやすみ」
父親の声を背中で聞きながら、部屋へ向かう。
布団に入ると、天井が少しだけ遠く感じた。
今日のことを思い出す。
園でのこと。
ワクのこと。
母親の言葉。
父親の声。
——手がかからない。
——しっかりしてる。
その言葉が、頭の中に残る。
悪い気はしない。
むしろ、ちゃんとやれてる証拠みたいで。
トワは、ぎゅっと目を閉じた。
——このままでいい。
そう思ったとき、少し変な感じがした。
でも、その理由はよくわからなかった。
わからないまま、トワは静かに眠りについた。

