午前の自由遊びの時間。
教室の中は、いつもより少しだけにぎやかだった。女の子たちが「いらっしゃいませー」と声を張り上げ、 おままごとをしている。 男の子たちはブロックで高い塔を作っては崩している。 その中で、トワくんは少しだけ離れた場所にいた。 一人で遊んでいるわけじゃない。でも、中心にもいない。
——あの子、いつもああだな。
全体を見ているような位置。 誰かが困れば、すぐに動ける距離。 私は少しだけ気になって、様子を見ていた。
「ねえ、これできない」
小さな声がした。 見ると、男の子がブロックの組み方で困っている。 近くにいたトワくんが、すっとしゃがみ込んだ。
「ここ、こうやるんだよ」
手を取るでもなく、やり方だけを見せる。
できるようになると、すぐに離れる。
「できた!ありがとう」
嬉しそうな声に、トワくんはちらっとだけ見て、
「できたじゃん」
それだけ言った。
その言い方が、やっぱり少しだけ引っかかる。
優しいのに、距離がある。
——なんだろう。
声をかけようとしたとき、
「トワくん!」
今度は別の子が呼んだ。
「ユナちゃんが、また泣きそう」
トワくんは少しだけ眉を寄せて、すぐに向かった。 私は追いかける。 ユナちゃんは、積み木を崩されて困っていた。 相手の子は悪気はなさそうで、ただ遊んでぶつかってしまっただけみたいだった。
「もう一回やればいいじゃん」
トワくんが言う。
でも、その声は責めていない。
「ほら、ここ押さえてたら崩れないから」
さっきと同じように、やり方だけ教える。 ユナちゃんが少しずつ落ち着いていく。 私はその様子を見ながら、胸の奥が少しだけざわついた。
——この子、すごいな。
……でも、その“すごさ”が、気になる。
「トワくん」
思わず声をかけると、彼は振り向いた。
「なに」
「さっきから、いっぱい助けてくれてるね」
「べつに」
やっぱり、同じ返事。
「すごいな、って思って」
そう言うと、トワくんは少しだけ目を逸らした。
「……そんなの」
一瞬、言葉が止まる。
「……当たり前じゃん」
やっぱり、それだった。 でも今日は、少しだけ違って聞こえた。 “言い切ってる”というより、
——“言い聞かせてる”みたいに聞こえた。
私は、言葉を探した。
でも、見つからなくて——
「……そっか」
それしか、言えなかった。
トワくんはそれ以上何も言わず、また子どもたちの方へ戻っていく。 誰かが困れば、すぐに気づいて、 誰かが泣きそうになれば、そっと寄り添う。
でも、自分から笑いに行くことは、あまりない。
そのとき、
「せんせーい!」
別の子に呼ばれて、私はそちらへ向かった。 少しして振り返ると、 トワくんが一人でブロックを組んでいた。 静かに、丁寧に。誰にも見せるわけでもなく。 その横顔は、年長の子どもにしては、少しだけ大人びて見えた。
——この子、ほんとはどんな顔で笑うんだろう。
教室の中は、いつもより少しだけにぎやかだった。女の子たちが「いらっしゃいませー」と声を張り上げ、 おままごとをしている。 男の子たちはブロックで高い塔を作っては崩している。 その中で、トワくんは少しだけ離れた場所にいた。 一人で遊んでいるわけじゃない。でも、中心にもいない。
——あの子、いつもああだな。
全体を見ているような位置。 誰かが困れば、すぐに動ける距離。 私は少しだけ気になって、様子を見ていた。
「ねえ、これできない」
小さな声がした。 見ると、男の子がブロックの組み方で困っている。 近くにいたトワくんが、すっとしゃがみ込んだ。
「ここ、こうやるんだよ」
手を取るでもなく、やり方だけを見せる。
できるようになると、すぐに離れる。
「できた!ありがとう」
嬉しそうな声に、トワくんはちらっとだけ見て、
「できたじゃん」
それだけ言った。
その言い方が、やっぱり少しだけ引っかかる。
優しいのに、距離がある。
——なんだろう。
声をかけようとしたとき、
「トワくん!」
今度は別の子が呼んだ。
「ユナちゃんが、また泣きそう」
トワくんは少しだけ眉を寄せて、すぐに向かった。 私は追いかける。 ユナちゃんは、積み木を崩されて困っていた。 相手の子は悪気はなさそうで、ただ遊んでぶつかってしまっただけみたいだった。
「もう一回やればいいじゃん」
トワくんが言う。
でも、その声は責めていない。
「ほら、ここ押さえてたら崩れないから」
さっきと同じように、やり方だけ教える。 ユナちゃんが少しずつ落ち着いていく。 私はその様子を見ながら、胸の奥が少しだけざわついた。
——この子、すごいな。
……でも、その“すごさ”が、気になる。
「トワくん」
思わず声をかけると、彼は振り向いた。
「なに」
「さっきから、いっぱい助けてくれてるね」
「べつに」
やっぱり、同じ返事。
「すごいな、って思って」
そう言うと、トワくんは少しだけ目を逸らした。
「……そんなの」
一瞬、言葉が止まる。
「……当たり前じゃん」
やっぱり、それだった。 でも今日は、少しだけ違って聞こえた。 “言い切ってる”というより、
——“言い聞かせてる”みたいに聞こえた。
私は、言葉を探した。
でも、見つからなくて——
「……そっか」
それしか、言えなかった。
トワくんはそれ以上何も言わず、また子どもたちの方へ戻っていく。 誰かが困れば、すぐに気づいて、 誰かが泣きそうになれば、そっと寄り添う。
でも、自分から笑いに行くことは、あまりない。
そのとき、
「せんせーい!」
別の子に呼ばれて、私はそちらへ向かった。 少しして振り返ると、 トワくんが一人でブロックを組んでいた。 静かに、丁寧に。誰にも見せるわけでもなく。 その横顔は、年長の子どもにしては、少しだけ大人びて見えた。
——この子、ほんとはどんな顔で笑うんだろう。

