ツンデレ男児 ― 本音を出したら、ちゃんと届いた ―

卒園式が終わったあと。
園庭には、少しだけあたたかい空気が流れていた。
子どもたちはそれぞれ、保護者の元へ向かっていく。
笑い声と、少しの涙。
その中で、トワは立ち止まっていた。

「トワくん」

いちか先生が声をかける。

「お母さん、あっちで待ってるよ」

トワは、動かない。
少しだけ下を向いて、
それから、顔を上げた。

「……いちか先生」

「ん?」

「アイカ先生に、教えてもらった」
 
小さな声。
でも、ちゃんとまっすぐ。

「この“すき”は」
 
一拍おいて、

「……だいじょうぶだから、なんだって」

いちか先生は、何も言わない。
ただ、ちゃんと聞く。

「……だから」
 
トワの声が、少し揺れる。

「……いちか先生と、わかれるの」

「……さみしい」

 一歩、近づく。

「……だいじょうぶ、なくなるの、やだ」

その瞬間、
トワは、ぎゅっと抱きついた。
小さな体が、震えている。
声をこらえきれなくて、
そのまま、泣き出した。

「……トワくん」

いちか先生は、そっと抱きしめる。
強くじゃなくて、包むみたいに。

「だいじょうぶだよ」

やさしい声。

「入学式、見に行くから」

トワが少しだけ顔を上げる。

「入学まで、まだ来れるから……会えるよ」

その言葉に、少しだけ安心した顔。

「……でもね」

いちか先生は続ける。

「入学式が、本当に“バイバイの日”なんだ」
 
トワの顔が、くしゃっと歪む。
ちゃんと、伝える。
ごまかさない。
でも、突き放さない。

「だから」

そっと頭を撫でる。

「それまでに、いっぱい元気でいようね」

トワは、泣きながら頷いた。

「……うん」

少しして、ゆっくり体を離す。
まだ涙は止まっていないけど、
ちゃんと、自分で立っている。

「……いちか先生」

「ん?」

「……すき」
 
最後の一言。
いちか先生は、少しだけ笑って、

「ありがとう」

いつもと同じ言葉。
でも、少しだけ違う響き。

「いつでも会えるから」
 
やさしく続ける。

「園に、遊びに来てくれたらね」

トワは、少しだけ笑った。

「……うん」

そのまま、振り返って、
お母さんの方へ走っていく。
もう、止まらない。
いちか先生は、その背中を見送った。
小さくて、
でも確かに、
前に進んでいく背中。