ツンデレ男児 ― 本音を出したら、ちゃんと届いた ―

午後の自由遊び
教室の中は、穏やかな時間が流れていた。
いちか先生は別の子の対応をしていて、少し離れた場所にいる。
そのとき、

「トワくん」

低くて落ち着いた声。
アイカ先生だった。

「これ、ちょっと手伝ってくれる?」

制作の材料を持っている。
トワくんは少しだけ見て、

「……やだ」

前なら言えなかった言葉。
でも今は、ちゃんと出てくる。
でもアイカ先生は、全く表情を変えなかった。

「そっか」

あっさりした声。

「じゃあ先生がやるわ」

それだけ。
責めるでもなく、
理由を聞くでもなく。
トワくんはそのまま離れようとして、少しだけ止まる。
ちらっと、アイカ先生を見る。
怒っていない。
困ってもいない。
ただ普通に、次のことをしようとしている。

「……なんで?」

ぽつりと、言う。
アイカ先生は手を止めて、

「え?」

「だって断ったのに怒らないの?」

アイカ先生は少しだけ笑った。

「うん。お願いしてるだけだし、無理にやらなくていいよ」

「これは先生の仕事だからね」

「……うん」

少し時間が経って。
トワくんは自分から近づいてきた。

「……やっぱり手伝いたい」

「ありがと」

アイカ先生は自然に受け取る。

「無理しないでね」

そう言いながら、隣にしゃがむ。

「できるときに、できる分だけでいい」

トワくんは手を動かしながら、

「……うん」

と答える。
その横顔を見て、アイカ先生がぽつりと言った。

「トワくんさ」

「なに」

「ちょっと顔やわらかくなったね」

 一瞬、動きが止まる。

「……そう?」

「うん」

あっさりした返事。

「前はもっと、“ちゃんとしなきゃ”って顔してたから」

「……べつに」

トワは少しだけ目を逸らす。
でも、完全には否定しない。

「いいんだよ」

アイカ先生は続ける。

「子どもなんだから」

どこかで聞いた言葉。
でも、少し違う響き。

「全部ちゃんとしなくていい。やらなきゃいけないことはある。でもどちらでもいい時は選んでいいんだよ」

トワくんは何も言わない。
でも、その言葉をちゃんと受け取っていた。

「……いちか先生も、言ってた」

ぽつりと呟く。
アイカ先生は少しだけ笑った。

「そっか」

「……うん」

しばらくして、トワくんは作業を終えた。

「できた」

「ありがとう」

アイカ先生は軽く頭を撫でる。
トワくんは一瞬だけびっくりして、
それから、少しだけ笑った。