(まったく、使えない部下を持つと苦労させられる)
けれど、このままではいずれ、シャロンの持ち物すべてが借金の形に消えるのも時間の問題。今まで通りの生活はおろか、並の暮らしすら維持できないかもしれないのだ。
この幸せな日常が奪われることなど、あってはならない。
早急に手を打たなくては。
自室に戻り、考えを巡らせながらワインを口に含んでいると、突然ノックもなしに扉が開かれた。
「見てくださいませ、レオナール様! このドレス、わたくしによく似合っているでしょう?」
満面の笑みで部屋に入ってくると、シャロンは軽やかに一回転してみせた。深紅のドレスが大輪の薔薇のようにふわりと広がる。
「ああ。とても美しいよ、シャロン」
葬儀の後で傷心しているかと思ったが、どうやら心配はなかったようだ。いつもと変わらない無邪気な様子に、レオナールはほっと胸を撫で下ろす。
すると、シャロンは甘えるように夫へ身を寄せてきた。
「ねぇレオナール様……わたくしのお願い、聞いてくださる?」
「なんだい?」
鼻腔をくすぐる甘い香りに、レオナールはだらしなく鼻の下を伸ばした。
「わたくし、喫茶店の事業を始めてみたいと思いますの」
「え……喫茶店?」
「ほら、こちらをご覧になって」
シャロンが持参した新聞を勢いよく広げると、一面にはルミナリア王妃の記事が載っていた。数年前に一号店を出して以来、今や国中に店舗を広げつつある彼女のカフェ事業は、諸外国からも大きな注目を集めているのだ。
「わたくしがオーナーになれば、もっと豪華で素敵なお店を作れるはずですわ。このおば……コホン、ルミナリア王妃になんか負けていられませんもの。もちろん、諸外国にもわたくしのお店を作る予定ですのよ。どうか、楽しみにしていてくださいませ。世界中の街角をわたくしのお店で埋め尽くしてみせますわ!」
「そ、そうか」
壮大すぎる夢を語る妻に、レオナールは呆気に取られていた。
(……いや、待てよ。もし成功すれば大きな利益に繋がるんじゃないか? 上手くいけば、財政難を解決してシャロンの株も上げることができる。まさに一石二鳥ではないか!)
未来を切り開く最高のアイディアに、レオナールは歓喜に打ち震えながら、シャロンを力いっぱい抱き締める。
「君は天才だよ、シャロン! この国の救世主だ!」
「レオナール様ったら、褒めすぎですわよっ」
そう言いながらも、シャロンは満更ではない様子でレオナールの首に腕を回した。
(本ばかり読んでいたロゼッタとは大違いだ。翻訳の道具としては使えたが、あの女には商才がなかったからな)
翌日、レオナールは早速宰相を呼びつけると、勝ち誇ったような顔で計画を語った。
「素晴らしい案だろう? これこそが、王家を救う起死回生の一手になると思うんだ」
「そう仰られましても……」
突然何を言い出すのかと思えば。宰相は虚ろな目で浅く溜め息をついた。
「陛下、まずこの状況下で、店舗を作る費用を捻出する余裕などございません」
「それをどうにかするのが、君の役目だろう?」
あっさり丸投げしてきた国王に、宰相の眉間の皺が深くなる。
「……まあ、木材や品質にこだわらなければ、安く済ませることができるかと思いますが」
「見た目さえ立派なら問題ないさ。速やかに着工の手配をしろ。ああ、そうだ。従業員は城の使用人や料理人を回せばいい。そうすれば、採用にかける時間や費用も一切省けるはずだ」
「し、しかし、それでは城の運営が立ち行かなくなります!」
流石に宰相が声を荒らげると、レオナールは煩わしそうに鼻を鳴らした。
「利益が出れば、その時に改めて従業員を募集すれば済む話じゃないか」
「…………」
「わかってくれたようで何よりだ。それではよろしく頼むよ、宰相」
レオナールににこやかに肩を叩かれ、宰相は「はい……」と力なく返事をするしかなかった。
けれど、このままではいずれ、シャロンの持ち物すべてが借金の形に消えるのも時間の問題。今まで通りの生活はおろか、並の暮らしすら維持できないかもしれないのだ。
この幸せな日常が奪われることなど、あってはならない。
早急に手を打たなくては。
自室に戻り、考えを巡らせながらワインを口に含んでいると、突然ノックもなしに扉が開かれた。
「見てくださいませ、レオナール様! このドレス、わたくしによく似合っているでしょう?」
満面の笑みで部屋に入ってくると、シャロンは軽やかに一回転してみせた。深紅のドレスが大輪の薔薇のようにふわりと広がる。
「ああ。とても美しいよ、シャロン」
葬儀の後で傷心しているかと思ったが、どうやら心配はなかったようだ。いつもと変わらない無邪気な様子に、レオナールはほっと胸を撫で下ろす。
すると、シャロンは甘えるように夫へ身を寄せてきた。
「ねぇレオナール様……わたくしのお願い、聞いてくださる?」
「なんだい?」
鼻腔をくすぐる甘い香りに、レオナールはだらしなく鼻の下を伸ばした。
「わたくし、喫茶店の事業を始めてみたいと思いますの」
「え……喫茶店?」
「ほら、こちらをご覧になって」
シャロンが持参した新聞を勢いよく広げると、一面にはルミナリア王妃の記事が載っていた。数年前に一号店を出して以来、今や国中に店舗を広げつつある彼女のカフェ事業は、諸外国からも大きな注目を集めているのだ。
「わたくしがオーナーになれば、もっと豪華で素敵なお店を作れるはずですわ。このおば……コホン、ルミナリア王妃になんか負けていられませんもの。もちろん、諸外国にもわたくしのお店を作る予定ですのよ。どうか、楽しみにしていてくださいませ。世界中の街角をわたくしのお店で埋め尽くしてみせますわ!」
「そ、そうか」
壮大すぎる夢を語る妻に、レオナールは呆気に取られていた。
(……いや、待てよ。もし成功すれば大きな利益に繋がるんじゃないか? 上手くいけば、財政難を解決してシャロンの株も上げることができる。まさに一石二鳥ではないか!)
未来を切り開く最高のアイディアに、レオナールは歓喜に打ち震えながら、シャロンを力いっぱい抱き締める。
「君は天才だよ、シャロン! この国の救世主だ!」
「レオナール様ったら、褒めすぎですわよっ」
そう言いながらも、シャロンは満更ではない様子でレオナールの首に腕を回した。
(本ばかり読んでいたロゼッタとは大違いだ。翻訳の道具としては使えたが、あの女には商才がなかったからな)
翌日、レオナールは早速宰相を呼びつけると、勝ち誇ったような顔で計画を語った。
「素晴らしい案だろう? これこそが、王家を救う起死回生の一手になると思うんだ」
「そう仰られましても……」
突然何を言い出すのかと思えば。宰相は虚ろな目で浅く溜め息をついた。
「陛下、まずこの状況下で、店舗を作る費用を捻出する余裕などございません」
「それをどうにかするのが、君の役目だろう?」
あっさり丸投げしてきた国王に、宰相の眉間の皺が深くなる。
「……まあ、木材や品質にこだわらなければ、安く済ませることができるかと思いますが」
「見た目さえ立派なら問題ないさ。速やかに着工の手配をしろ。ああ、そうだ。従業員は城の使用人や料理人を回せばいい。そうすれば、採用にかける時間や費用も一切省けるはずだ」
「し、しかし、それでは城の運営が立ち行かなくなります!」
流石に宰相が声を荒らげると、レオナールは煩わしそうに鼻を鳴らした。
「利益が出れば、その時に改めて従業員を募集すれば済む話じゃないか」
「…………」
「わかってくれたようで何よりだ。それではよろしく頼むよ、宰相」
レオナールににこやかに肩を叩かれ、宰相は「はい……」と力なく返事をするしかなかった。
