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「先生…怒られちゃうね」



大分、落ち着いてきた。


「…誰に?」

「先生の奥さんに」

「これは!その、そういう事じゃなくて…綾瀬が!」



先生が思っていた以上に焦っていて、何だか可愛かった。


「ふふっ」

「大人を揶揄うな!」

今どんな顔をしてるんだろう、少しむくれているのかな。見えないのが惜しい。

バンっ

突然夢から醒めたように、ライトがパッと点いて、ゴゴゴっとエレベーターが音を立てた。
どうやら停電は復旧したようだ。

お互いに汗ばんでくっついていた体温が一瞬にしてパッと離れた。

「大丈夫か?」

「…はい」

私は少しずつ立ち上がって、無事に5階に着いたエレベーターは何事も無かったかのように扉を開けた。

雨はまだ小降りで、外は蒸し暑い夏の夕暮れだ。


先生の視線がふと私に向けられて、胸がドキドキしたまま、息を整えるのを忘れてしまいそうになる。


「傘持ってきてないだろ?」


「…うん」

先生は私の持っていた分の箱も持ち上げて、ちょっと待っててって短く言うと、職員室へと入っていった。

職員室の外の廊下にも、珈琲の香りが充満していて、ゆっくりと深呼吸する。

大丈夫、動悸もおさまってる。

珈琲は飲めないけれど、この香りは好き。


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