職員室を離れ、希美と礼司は廊下を並んで歩いていた。希美はちらりと礼司の顔を見上げる。礼司の雰囲気には棘がない。密かに希美は微笑んだ。そのうちに二人は進路指導室の前を通りがかった。扉の前にはハネについてのパンフレットが置かれている。希美は一瞬自分の上靴を見た後、顔を上げた。
「先輩」
「ん?」
礼司は希美の方を向く。希美は真っ直ぐに礼司を見つめた。
「先輩が、私のハネを褒めてくれたのが、私本当に嬉しくて」
「それは……良かった」
礼司と希美の微笑みが空中で重なる。静かに希美は言葉を継いだ。
「私のハネが誰かの役に立つこともあるって思うと、毎日が少し素敵に思えます。元々嫌いではなかったけど……」
希美の声音はどこまでも真摯だった。優しく希美に笑いかけた後、礼司は前に目を向ける。どこか遠くを見つめていた。
「俺は俺のハネを疎ましく思ったこともあったけど……今はこのハネで良かったと思うよ」
言い終えると、礼司は希美に視線を戻した。
「香坂のことも守れたし」
柔らかく微笑みかけられ、希美は真っ赤になって俯いた。気付いているのかいないのか、礼司は軽い調子で続ける。
「また香坂のハネ、見てみたいな」
「……今は花だらけになってるかも……」
希美は自分の浮かれっぷりを反映した幻想世界を想像し、苦笑した。
「へえ。いいじゃん。見せてよ」
礼司は希美に顔を寄せる。
「え」
「ああ、ここじゃ良くない?」
「い、いえ」
思いの他食いつかれ、希美は少し面食らった。しかしハネを見せることへ抵抗があるわけではない。相手は他でもない礼司なのだ。幸い他に人通りもなく、普段から往来の激しい場所でもない。了承のニュアンスを感じ取ったのか、礼司はすでに片手を差し出していた。
「そ、それじゃ」
希美はおずおずと礼司の手を取り、自分のポケットに持っていった。
二人はそっと、閉じていた目を開ける。異空間は元々のパステルカラーの空気を残したまま、一層きらびやかな佇まいになっていた。咲き誇る花々だけではない……薄紫の澄んだ川も、折り紙のような月も、宝石が実る木々も、世界の全てが礼司を歓迎している。
「本当にすごいな」
「へへ……」
礼司からの称賛に、希美はへらへらと頬をゆるめる。礼司の希美を見つめる瞳に、熱がこもった。
「香坂」
礼司が手に力を込めたのが、繋いでいた希美にはすぐ分かった。
「はい」
どんな内容でも礼司に呼びかけられるのは嬉しいと、希美は心のままに微笑む。
「俺香坂のこと好きだから、彼女になってほしい」
礼司は言い淀むことなく、それを言うのが当たり前のことであるかのように告げた。
「へ」
目を丸くした希美を見て、礼司はおかしそうに笑う。希美の理解が追い付くより先に、辺りの花は更に鮮やかさを増していた。幻獣たちは元気よく鳴き、星と月と太陽が沈まない空はきらきらと輝く。目がまんまるになったまま、希美はじわじわと頬が紅潮していくのを感じていた。
終
「先輩」
「ん?」
礼司は希美の方を向く。希美は真っ直ぐに礼司を見つめた。
「先輩が、私のハネを褒めてくれたのが、私本当に嬉しくて」
「それは……良かった」
礼司と希美の微笑みが空中で重なる。静かに希美は言葉を継いだ。
「私のハネが誰かの役に立つこともあるって思うと、毎日が少し素敵に思えます。元々嫌いではなかったけど……」
希美の声音はどこまでも真摯だった。優しく希美に笑いかけた後、礼司は前に目を向ける。どこか遠くを見つめていた。
「俺は俺のハネを疎ましく思ったこともあったけど……今はこのハネで良かったと思うよ」
言い終えると、礼司は希美に視線を戻した。
「香坂のことも守れたし」
柔らかく微笑みかけられ、希美は真っ赤になって俯いた。気付いているのかいないのか、礼司は軽い調子で続ける。
「また香坂のハネ、見てみたいな」
「……今は花だらけになってるかも……」
希美は自分の浮かれっぷりを反映した幻想世界を想像し、苦笑した。
「へえ。いいじゃん。見せてよ」
礼司は希美に顔を寄せる。
「え」
「ああ、ここじゃ良くない?」
「い、いえ」
思いの他食いつかれ、希美は少し面食らった。しかしハネを見せることへ抵抗があるわけではない。相手は他でもない礼司なのだ。幸い他に人通りもなく、普段から往来の激しい場所でもない。了承のニュアンスを感じ取ったのか、礼司はすでに片手を差し出していた。
「そ、それじゃ」
希美はおずおずと礼司の手を取り、自分のポケットに持っていった。
二人はそっと、閉じていた目を開ける。異空間は元々のパステルカラーの空気を残したまま、一層きらびやかな佇まいになっていた。咲き誇る花々だけではない……薄紫の澄んだ川も、折り紙のような月も、宝石が実る木々も、世界の全てが礼司を歓迎している。
「本当にすごいな」
「へへ……」
礼司からの称賛に、希美はへらへらと頬をゆるめる。礼司の希美を見つめる瞳に、熱がこもった。
「香坂」
礼司が手に力を込めたのが、繋いでいた希美にはすぐ分かった。
「はい」
どんな内容でも礼司に呼びかけられるのは嬉しいと、希美は心のままに微笑む。
「俺香坂のこと好きだから、彼女になってほしい」
礼司は言い淀むことなく、それを言うのが当たり前のことであるかのように告げた。
「へ」
目を丸くした希美を見て、礼司はおかしそうに笑う。希美の理解が追い付くより先に、辺りの花は更に鮮やかさを増していた。幻獣たちは元気よく鳴き、星と月と太陽が沈まない空はきらきらと輝く。目がまんまるになったまま、希美はじわじわと頬が紅潮していくのを感じていた。
終
