家に帰りついた希美は自室にいた。夕食をとったり部屋着に着替えたり……何をしていてもどこか現実感がない。希美は机に頬杖をつき、茫然としていた。ほう、と息をつく。
『気づいてしまった……』
目を閉じ、希美は思考を巡らせた。
『私、先輩が好きだったんだ』
傘を持つために手を差し出す礼司を思い起こす。希美はぎゅっと顔全体に力をこめた。
「あー!」
思い切り声を上げ、足をバタバタさせる。
「なんか、なんか、なにこれ! そわそわする!」
叫びにも似た希美の独り言が部屋にこだました。暴れながらベッドにダイブする。ひとしきりもがいた後、希美は絞り出すように口を開いた。
「すき……」
枕に顔を埋めた希美のことをぬいぐるみだけが見つめている。
いつの間にか眠ってしまい、希美は夢を見た。
雨の降る羽瑞学園。希美はそれを空から眺めていた。
『雨の、学校……あ』
希美の目が、希美を映す。夢の中の希美は下駄箱から傘をさして出てくるところだった。
『私……』
空中の希美は目線を動かした。希美の予想した通り、二年生の下駄箱には礼司がいた。
『速水先輩』
夢の中の希美は礼司のところにかけていく。そこで空中の希美の視点が切り替わった。空中の希美と夢の中の希美が同化した形だった。
『あっ』
希美の目の前には礼司がいる。
「あ、あ、あの。私」
突然のことに希美はもごもごと挙動不審になる。構わずに礼司は薄く微笑んだ。
「あ、あの、傘! 傘開きますね!」
狼狽えながらも希美は持っていた折りたたみ傘を開いた。
「持つよ」
現実と同じくそう告げ、礼司はポケットから手を出す。
「あ……」
希美はじっとその様子を見つめた。
『先輩の手が、ポケットから出てくる……私の傘を、持つために』
希美の唇がキュッと引き締められる。礼司は傘を持って笑いかけた。夢の中の礼司は現実よりも柔和な雰囲気を持っているようだった。そのことに希美は安堵と物足りなさの両方を感じる。だが今はそんなことはどうでもよかった。
『こんなにも嬉しい。不思議なくらい……』
噛みしめる希美の耳にどこからか目覚ましのアラーム音が響く。
『なに? これは……』
希美はハッとした。忘れていた、これは……。
思い至った時、希美はベッドで目を覚ました。へなへなと脱力する。
「夢かあー」
希美は布団に口元を埋めた。
『でも先輩の夢。なんかよかった』
ほくそ笑み、希美は先ほどの夢を反芻する。
「へへへ……」
希美は余韻のままごろごろと寝がえりを打った。
希美の心に劇的な変化があったとしても、日常は変わらない。1年A組の教室では授業が行われていた。希美もいつも通りにそれを受けている。内面は全くいつも通りではなかったが。
『今日なんかふわふわしちゃってる……』
希美はちらりと横……教室真ん中あたりの席を見た。由佳の席だ。目立つ位置だったが、由佳は居眠りをしていた。希美は小さく笑う。少しだけ平静を取り戻した気がした。今度は窓に視線を移す。偶然だったが、グラウンドには能力開発の授業をしている礼司がいた。
『先輩だ』
希美の意識は思わずそちらに集中する。礼司は三崎と話し、笑っていた。
『楽しそう』
希美の顔に微笑みが広がる。希美はふと礼司のポケットを見た。片手が中に入れられている。瞬間的に、希美は傘を持つ手を思い出した。希美は耳まで赤くなる。弾かれたように目を伏せた。
『嬉しい。思い出す度に。毎回』
希美はぎゅっと胸の前でシャーペンを握りしめる。そうすることであふれそうな激情を体に閉じ込めた。
『気づいてしまった……』
目を閉じ、希美は思考を巡らせた。
『私、先輩が好きだったんだ』
傘を持つために手を差し出す礼司を思い起こす。希美はぎゅっと顔全体に力をこめた。
「あー!」
思い切り声を上げ、足をバタバタさせる。
「なんか、なんか、なにこれ! そわそわする!」
叫びにも似た希美の独り言が部屋にこだました。暴れながらベッドにダイブする。ひとしきりもがいた後、希美は絞り出すように口を開いた。
「すき……」
枕に顔を埋めた希美のことをぬいぐるみだけが見つめている。
いつの間にか眠ってしまい、希美は夢を見た。
雨の降る羽瑞学園。希美はそれを空から眺めていた。
『雨の、学校……あ』
希美の目が、希美を映す。夢の中の希美は下駄箱から傘をさして出てくるところだった。
『私……』
空中の希美は目線を動かした。希美の予想した通り、二年生の下駄箱には礼司がいた。
『速水先輩』
夢の中の希美は礼司のところにかけていく。そこで空中の希美の視点が切り替わった。空中の希美と夢の中の希美が同化した形だった。
『あっ』
希美の目の前には礼司がいる。
「あ、あ、あの。私」
突然のことに希美はもごもごと挙動不審になる。構わずに礼司は薄く微笑んだ。
「あ、あの、傘! 傘開きますね!」
狼狽えながらも希美は持っていた折りたたみ傘を開いた。
「持つよ」
現実と同じくそう告げ、礼司はポケットから手を出す。
「あ……」
希美はじっとその様子を見つめた。
『先輩の手が、ポケットから出てくる……私の傘を、持つために』
希美の唇がキュッと引き締められる。礼司は傘を持って笑いかけた。夢の中の礼司は現実よりも柔和な雰囲気を持っているようだった。そのことに希美は安堵と物足りなさの両方を感じる。だが今はそんなことはどうでもよかった。
『こんなにも嬉しい。不思議なくらい……』
噛みしめる希美の耳にどこからか目覚ましのアラーム音が響く。
『なに? これは……』
希美はハッとした。忘れていた、これは……。
思い至った時、希美はベッドで目を覚ました。へなへなと脱力する。
「夢かあー」
希美は布団に口元を埋めた。
『でも先輩の夢。なんかよかった』
ほくそ笑み、希美は先ほどの夢を反芻する。
「へへへ……」
希美は余韻のままごろごろと寝がえりを打った。
希美の心に劇的な変化があったとしても、日常は変わらない。1年A組の教室では授業が行われていた。希美もいつも通りにそれを受けている。内面は全くいつも通りではなかったが。
『今日なんかふわふわしちゃってる……』
希美はちらりと横……教室真ん中あたりの席を見た。由佳の席だ。目立つ位置だったが、由佳は居眠りをしていた。希美は小さく笑う。少しだけ平静を取り戻した気がした。今度は窓に視線を移す。偶然だったが、グラウンドには能力開発の授業をしている礼司がいた。
『先輩だ』
希美の意識は思わずそちらに集中する。礼司は三崎と話し、笑っていた。
『楽しそう』
希美の顔に微笑みが広がる。希美はふと礼司のポケットを見た。片手が中に入れられている。瞬間的に、希美は傘を持つ手を思い出した。希美は耳まで赤くなる。弾かれたように目を伏せた。
『嬉しい。思い出す度に。毎回』
希美はぎゅっと胸の前でシャーペンを握りしめる。そうすることであふれそうな激情を体に閉じ込めた。
