パフェの魔法:それは、あなたが望んだ物語

 しかし、王子はふと、自分の掌(てのひら)に柔らかな温もりを感じて目を見開きました。

「これは……なんだろう。この温かい光は」

 それは、あの日国境の橋で別れ際、パフェがそっと彼の指先に忍ばせておいた魔法の欠片。
 目には見えないほど小さな、けれど決して消えることのない『小さな希望』の種でした。

 その光が王子の瞳に宿った瞬間、彼の心から霧が晴れていきました。

「……そうだ。まだ、間に合うかもしれない。諦めてはいけないんだ」

「――そう。まだ、十分間に合うはずよ」

 聞き慣れた朗らかな声に弾かれたように顔を上げると、夜の帳(とばり)を切り裂いて、宙に浮かぶ優雅なゴンドラが姿を現しました。

 月光を背に受け、日傘を回しながら微笑むパフェ。
 その後ろでは、ミスター・フランクが丸太のような腕で力強く空を漕いでいます。

「ボナセーラ(こんばんは)王子、お迎えに上がりましたわ」

 パフェの朗らかな声に、王子の瞳は一瞬だけ希望に打ち震えました。
 けれど、すぐにその輝きは、重い鎖に繋がれたような沈んだ色へと戻ってしまいます。

「……けれど、私がここを離れるわけにはいかないんだ。今の父上は、ジルバの操り人形も同然。それに、契約がある以上、私がいなくなればヴィオラの姿は……。彼女は、一生あのアヒルのまま、暗い湖で過ごすことになってしまう」