空は風に恋をした

空港の展望デッキ。

夜の風が、静かに吹いていた。

滑走路の灯りがまっすぐ伸び、その先で一機の飛行機がゆっくりと動き出す。

美空は手すりの前に立ち、その光を見つめていた。

「この時間、好きなんです」

小さく呟く。

「だな」

隣に立つ颯太が答える。

しばらく、言葉はない。

エンジンの低い音と、風の音だけが流れる。



「……美空」

呼ばれて、振り向く。

「はい」

その目を見て、颯太は一瞬だけ言葉を探す。

でも、逸らさない。

「前、迷ってたって言っただろ」

「はい」

「もう、大丈夫。ちゃんと前、見えてる」

短い言葉。

でも、それだけで十分だった。



颯太は一歩、距離を詰める。

逃げ場を奪わない距離。

でも、ちゃんと届く距離。

「ちゃんと考えて、自分で決めた」

その声に、迷いはない。



「これからも」

少しだけ息を吐く。

「一緒に空を見よう」

まっすぐだった。

飾らない。

でも、確かな覚悟があった。



一瞬、静寂が落ちる。



颯太は少しだけ視線を落とし、何かを言いかけてやめる。

それから、もう一度美空を見る。

その目は、もう迷っていなかった。



「結婚してください」

静かに、でもはっきりと告げる。



美空の視界が滲む。

胸がいっぱいで、言葉が追いつかない。

それでも。

笑っていた。

涙がこぼれる。

でも、ちゃんと笑っている。

「……はい」

震える声。

でも、しっかり届く。



颯太は小さく息を吐いて、「……よかった」と笑った。

そのままポケットに手を入れ、小さな箱を取り出す。

「……一応、準備はしてた」

少しだけ照れた声。

箱を開けると、シンプルな指輪が光る。

美空の視線が揺れる。

颯太はその手を取り、

迷いなく指に通した。

ぴったりだった。



その指を、少しだけ見てから。

「似合うと思った」

短く言う。



その瞬間、美空の涙がこぼれる。

でも、笑っている。



颯太は少しだけ目を細めて、

「……よかった」

さっきより静かに言う。

そのまま、指を絡めて握る。

離さない。



夜の空に、飛行機が上がっていく。

光がゆっくりと遠ざかる。

二人はそれを並んで見上げる。

同じ方向を見ている。

同じ空の下で。

これからも、ずっと。