出発ロビーに、ざわめきが広がっていた。
「本日最終便は、機材トラブルのため欠航となります――」
アナウンスが繰り返される。
颯太は小さく息を吐いた。
「まじか……」
スマホを見ても、代替便は出ていない。
明日の便に振り替えになるらしい。
仕方ない。
そう思いながら、視線を上げた時だった。
「あ……」
少し離れたところに、見覚えのある姿。
美空だった。
同じように、状況を確認しているらしい。
ふと、目が合う。
一瞬だけ、驚いた顔。
それから、少しだけ笑う。
颯太も、つられて笑った。
「欠航、ですか?」
「みたいですね」
美空は小さく肩をすくめる。
「私も、別便の予定だったんですけど……帰宅になりました」
少しだけ残念そうに笑う。
その空気が、やけに柔らかかった。
颯太は少しだけ考える。
そして。
「……このあと、時間ありますか」
自分でも少しだけ驚くくらい、自然に言葉が出た。
美空が瞬きをする。
「え?」
「もしよかったら」
少しだけ照れたように笑う。
「どこかで、時間潰しませんか」
一瞬の間。
それから、美空はふっと笑った。
「……はい」
小さく頷く。
⸻
空港内のカフェは、思っていたより静かだった。
二人は向かい合って座る。
まだ少し、ぎこちない。
でも、不思議と嫌じゃない。
他愛もない会話が、少しずつ続く。
その中で。
ふと、颯太が言った。
「空、好きなんですね」
美空は少しだけ驚いたように目を瞬かせて、それから笑った。
「はい。好きです」
ガラスの向こうに視線を向ける。
「小さい頃から、ずっと」
そして、少しだけ間があって。
「父が、航空整備士だったんです」
颯太は何も言わずに聞いている。
美空は少しだけ視線を落とす。
「パイロットになりたかったみたいなんですけど、視力が足りなくて」
少しだけ笑う。
「それで、整備士になったって」
誇らしそうでもあった。
でも。
次の言葉は、少しだけ静かになる。
「……中学生のときに、事故で亡くなって」
風が、二人の間を抜ける。
音が、少し遠くなる。
それでも。
美空は、そこで止まらなかった。
「正直、空なんて見たくないって思った時もありました」
小さく息を吐く。
「でも」
顔を上げる。
空を見る。
「父が好きだったもの、嫌いになりたくなくて」
少し照れたように笑う。
「だから、私も空の仕事、選びました」
その笑顔は、無理をしていなかった。
ちゃんと、自分で選んだ顔だった。
颯太は、その横顔を見ていた。
何も言わない。
でも。
目を逸らさなかった。
⸻
少しだけ、静かな時間が流れる。
美空は少し照れたように笑う。
「……なんか、すみません。急にこんな話」
颯太は首を横に振る。
「いや」
少しだけ間を置く。
「いい話、聞けました」
その言葉に、美空は少しだけ目を細める。
無理に励まさない。
でも、ちゃんと受け取ってくれる。
その距離が、心地よかった。
⸻
カフェを出る。
さっきより、少しだけ空気が変わっていた。
並んで歩く。
会話は少ない。
でも、不思議と気まずくない。
そろそろ別れる場所に近づく。
美空が足を少しだけ緩める。
「……あの」
颯太も立ち止まる。
少しだけ間。
美空が、少し迷ったように言う。
「また……会えますか」
その言葉に、颯太が少しだけ目を細める。
驚いたような、でも嬉しそうな表情。
「会いたいですか?」
少しだけ意地悪な聞き方。
でも、声はやわらかい。
美空は一瞬だけ戸惑って。
それから、小さく頷く。
「……はい」
颯太は、ふっと笑う。
「じゃあ」
スマホを取り出す。
「交換、します?」
その流れが、あまりにも自然だった。
美空も少しだけ笑って、スマホを取り出す。
「はい」
連絡先を交換する。
ほんの数秒。
でも。
その距離が、少しだけ近くなった気がした。
「……じゃあ、また」
「はい、また」
今度は、少しだけ違う“また”だった。
「本日最終便は、機材トラブルのため欠航となります――」
アナウンスが繰り返される。
颯太は小さく息を吐いた。
「まじか……」
スマホを見ても、代替便は出ていない。
明日の便に振り替えになるらしい。
仕方ない。
そう思いながら、視線を上げた時だった。
「あ……」
少し離れたところに、見覚えのある姿。
美空だった。
同じように、状況を確認しているらしい。
ふと、目が合う。
一瞬だけ、驚いた顔。
それから、少しだけ笑う。
颯太も、つられて笑った。
「欠航、ですか?」
「みたいですね」
美空は小さく肩をすくめる。
「私も、別便の予定だったんですけど……帰宅になりました」
少しだけ残念そうに笑う。
その空気が、やけに柔らかかった。
颯太は少しだけ考える。
そして。
「……このあと、時間ありますか」
自分でも少しだけ驚くくらい、自然に言葉が出た。
美空が瞬きをする。
「え?」
「もしよかったら」
少しだけ照れたように笑う。
「どこかで、時間潰しませんか」
一瞬の間。
それから、美空はふっと笑った。
「……はい」
小さく頷く。
⸻
空港内のカフェは、思っていたより静かだった。
二人は向かい合って座る。
まだ少し、ぎこちない。
でも、不思議と嫌じゃない。
他愛もない会話が、少しずつ続く。
その中で。
ふと、颯太が言った。
「空、好きなんですね」
美空は少しだけ驚いたように目を瞬かせて、それから笑った。
「はい。好きです」
ガラスの向こうに視線を向ける。
「小さい頃から、ずっと」
そして、少しだけ間があって。
「父が、航空整備士だったんです」
颯太は何も言わずに聞いている。
美空は少しだけ視線を落とす。
「パイロットになりたかったみたいなんですけど、視力が足りなくて」
少しだけ笑う。
「それで、整備士になったって」
誇らしそうでもあった。
でも。
次の言葉は、少しだけ静かになる。
「……中学生のときに、事故で亡くなって」
風が、二人の間を抜ける。
音が、少し遠くなる。
それでも。
美空は、そこで止まらなかった。
「正直、空なんて見たくないって思った時もありました」
小さく息を吐く。
「でも」
顔を上げる。
空を見る。
「父が好きだったもの、嫌いになりたくなくて」
少し照れたように笑う。
「だから、私も空の仕事、選びました」
その笑顔は、無理をしていなかった。
ちゃんと、自分で選んだ顔だった。
颯太は、その横顔を見ていた。
何も言わない。
でも。
目を逸らさなかった。
⸻
少しだけ、静かな時間が流れる。
美空は少し照れたように笑う。
「……なんか、すみません。急にこんな話」
颯太は首を横に振る。
「いや」
少しだけ間を置く。
「いい話、聞けました」
その言葉に、美空は少しだけ目を細める。
無理に励まさない。
でも、ちゃんと受け取ってくれる。
その距離が、心地よかった。
⸻
カフェを出る。
さっきより、少しだけ空気が変わっていた。
並んで歩く。
会話は少ない。
でも、不思議と気まずくない。
そろそろ別れる場所に近づく。
美空が足を少しだけ緩める。
「……あの」
颯太も立ち止まる。
少しだけ間。
美空が、少し迷ったように言う。
「また……会えますか」
その言葉に、颯太が少しだけ目を細める。
驚いたような、でも嬉しそうな表情。
「会いたいですか?」
少しだけ意地悪な聞き方。
でも、声はやわらかい。
美空は一瞬だけ戸惑って。
それから、小さく頷く。
「……はい」
颯太は、ふっと笑う。
「じゃあ」
スマホを取り出す。
「交換、します?」
その流れが、あまりにも自然だった。
美空も少しだけ笑って、スマホを取り出す。
「はい」
連絡先を交換する。
ほんの数秒。
でも。
その距離が、少しだけ近くなった気がした。
「……じゃあ、また」
「はい、また」
今度は、少しだけ違う“また”だった。

