美空は空港デッキに出た。
初夏の風が、ふわりと頬をかすめる。
思わず空を見上げた。
高い空だった。
滑走路の向こうで、飛行機がゆっくりと動いている。
この景色が好きだった。
フライトの前、時間があるときは、こうしてここに来る。
空を見ていると、なんとなく気持ちが整うから。
その時だった。
「美空さん?」
聞き覚えのある声に振り向く。
颯太だった。
「颯太さん」
思わず名前を呼ぶ。
颯太は少しだけ笑った。
「今日はお休みですか?」
「いえ」
颯太は空を見上げる。
「これから出張なんです」
そう言って、滑走路の方を見る。
その横顔が、なんだか少し大人に見えた。
その時。
強い風が吹いた。
「あ……」
美空の髪が大きく揺れる。
慌ててまとめようとする。
けれど、うまくいかない。
風が強くて、髪が何度もほどけてしまう。
「貸してください」
颯太の声だった。
美空は少し驚いて振り向く。
颯太は手を差し出していた。
美空は戸惑いながらヘアゴムを渡す。
颯太は一歩近づき、美空の後ろに回る。
風に揺れていた髪を、そっとまとめた。
指先が髪に触れる。
思ったより近い距離に、美空の心臓が跳ねる。
颯太は静かに言った。
「風、強いですね」
髪を結び終える。
その時。
耳の横の髪が少しほどけていた。
颯太はそれに気づき、そっと指で拾う。
そして、美空の耳にかけた。
美空は、動けなかった。
胸の奥で、心臓の音だけが大きく響いている。
「はい」
颯太が少し笑う。
美空は振り向けないまま、小さく頷いた。
その時、また風が吹いた。
でも今度は、髪は乱れなかった。
「それじゃ」
颯太が軽く会釈する。
「行ってきます」
そう言って歩き出す。
美空は、その背中を見ていた。
やがて颯太の姿は、建物の中へ消えていく。
風だけが、デッキに残った。
美空はそっと髪に触れる。
さっき、結ってもらった場所。
胸が、まだ少しうるさい。
⸻
展望デッキに面したカフェ。
朝陽は窓際の席に座っていた。
コーヒーを片手に、外を眺めている。
ガラスの向こうには空港デッキが見えた。
あそこに、美空がいることがあるのを朝陽は知っていた。
フライト前、よく空を見に来ている。
今日もいるかもしれないと思って、なんとなく窓際の席を選んだ。
その時だった。
見慣れた後ろ姿が目に入る。
美空だった。
朝陽は視線を止める。
その隣には、背の高い男がいた。
飯島だった。
少しして、飯島が美空の後ろに回る。
何をしているのかと思った次の瞬間。
髪をまとめているのが見えた。
朝陽は何も言わない。
ただ、その様子を見ていた。
風が吹く。
美空の髪が揺れる。
飯島が、耳の横の髪をそっとかけた。
その時。
美空が少し固まったのが見えた。
朝陽の眉が、わずかに動く。
そして小さく息を吐いた。
「……ああ」
少し間を置く。
「そういう感じか」
⸻
スタッフエリアのロッカー室。
美空は制服に着替えていた。
鏡の前で、髪をまとめる。
いつものように結ぶ。
でも。
ふと、手が止まる。
さっきの風。
颯太の手。
耳に触れた指先。
胸の奥が、きゅっと締まる。
思い出しただけで、心臓が少し速くなる。
美空は小さく息を吐いた。
「……もう」
思わず小さく笑う。
鏡の中の自分の顔が、ほんのり赤い。
さっき結んでもらった場所に、そっと触れる。
そのままにしておきたい気持ちを振り払うように、
美空は髪を結び直した。
それでも。
胸の奥の、きゅっとした感じは消えなかった。
初夏の風が、ふわりと頬をかすめる。
思わず空を見上げた。
高い空だった。
滑走路の向こうで、飛行機がゆっくりと動いている。
この景色が好きだった。
フライトの前、時間があるときは、こうしてここに来る。
空を見ていると、なんとなく気持ちが整うから。
その時だった。
「美空さん?」
聞き覚えのある声に振り向く。
颯太だった。
「颯太さん」
思わず名前を呼ぶ。
颯太は少しだけ笑った。
「今日はお休みですか?」
「いえ」
颯太は空を見上げる。
「これから出張なんです」
そう言って、滑走路の方を見る。
その横顔が、なんだか少し大人に見えた。
その時。
強い風が吹いた。
「あ……」
美空の髪が大きく揺れる。
慌ててまとめようとする。
けれど、うまくいかない。
風が強くて、髪が何度もほどけてしまう。
「貸してください」
颯太の声だった。
美空は少し驚いて振り向く。
颯太は手を差し出していた。
美空は戸惑いながらヘアゴムを渡す。
颯太は一歩近づき、美空の後ろに回る。
風に揺れていた髪を、そっとまとめた。
指先が髪に触れる。
思ったより近い距離に、美空の心臓が跳ねる。
颯太は静かに言った。
「風、強いですね」
髪を結び終える。
その時。
耳の横の髪が少しほどけていた。
颯太はそれに気づき、そっと指で拾う。
そして、美空の耳にかけた。
美空は、動けなかった。
胸の奥で、心臓の音だけが大きく響いている。
「はい」
颯太が少し笑う。
美空は振り向けないまま、小さく頷いた。
その時、また風が吹いた。
でも今度は、髪は乱れなかった。
「それじゃ」
颯太が軽く会釈する。
「行ってきます」
そう言って歩き出す。
美空は、その背中を見ていた。
やがて颯太の姿は、建物の中へ消えていく。
風だけが、デッキに残った。
美空はそっと髪に触れる。
さっき、結ってもらった場所。
胸が、まだ少しうるさい。
⸻
展望デッキに面したカフェ。
朝陽は窓際の席に座っていた。
コーヒーを片手に、外を眺めている。
ガラスの向こうには空港デッキが見えた。
あそこに、美空がいることがあるのを朝陽は知っていた。
フライト前、よく空を見に来ている。
今日もいるかもしれないと思って、なんとなく窓際の席を選んだ。
その時だった。
見慣れた後ろ姿が目に入る。
美空だった。
朝陽は視線を止める。
その隣には、背の高い男がいた。
飯島だった。
少しして、飯島が美空の後ろに回る。
何をしているのかと思った次の瞬間。
髪をまとめているのが見えた。
朝陽は何も言わない。
ただ、その様子を見ていた。
風が吹く。
美空の髪が揺れる。
飯島が、耳の横の髪をそっとかけた。
その時。
美空が少し固まったのが見えた。
朝陽の眉が、わずかに動く。
そして小さく息を吐いた。
「……ああ」
少し間を置く。
「そういう感じか」
⸻
スタッフエリアのロッカー室。
美空は制服に着替えていた。
鏡の前で、髪をまとめる。
いつものように結ぶ。
でも。
ふと、手が止まる。
さっきの風。
颯太の手。
耳に触れた指先。
胸の奥が、きゅっと締まる。
思い出しただけで、心臓が少し速くなる。
美空は小さく息を吐いた。
「……もう」
思わず小さく笑う。
鏡の中の自分の顔が、ほんのり赤い。
さっき結んでもらった場所に、そっと触れる。
そのままにしておきたい気持ちを振り払うように、
美空は髪を結び直した。
それでも。
胸の奥の、きゅっとした感じは消えなかった。

