空は風に恋をした

春の風が、やわらかく吹いていた。

公園の桜は満開で、花びらが静かに舞っている。

見慣れたベンチ。あの頃と同じ場所。

でも、そこにいるのはもう子供じゃない。

「遅くなってすみません」

美空が小さく頭を下げる。

その隣で、颯太が軽く笑う。

「そんなに待ってないだろ」

「颯太!」

奈々の声が弾む。

振り返ると、変わらない笑顔。その隣には諒。

そして——小さな女の子が、奈々の手を握っていた。

「久しぶり」

颯太が自然に言う。

奈々の視線が美空に向く。

少し驚いて、でもすぐに柔らかく笑う。

「はじめまして」

「美空です」

「この子、もうすぐ6歳になるの」

奈々が女の子の頭を撫でる。

「こんにちは」

女の子がぺこっと頭を下げる。

その時。

「パパ!」

無邪気な声とともに、小さな男の子が颯太の足にしがみつく。

颯太が少し照れたように笑う。

「こら、いきなり走るなって」

自然にその頭を撫でる。

奈々はその様子を見て、少しだけ目を細めた。

それから、やわらかく笑う。

「そっか…颯太も、お父さんなんだね」

「まあな」

颯太が肩をすくめる。

子供たちはすぐに打ち解けて、手を繋いで走り出す。

滑り台へ向かって。

「あぶないよー!」

美空が少し慌てた声を上げる。

奈々もくすっと笑いながら見守る。

その様子を、少し離れて見ながら。

颯太と諒が並ぶ。

「……変わったな」

「お互いな」

少しの沈黙。でも気まずさはない。

「ちゃんとやってるみたいだな」

「それなりに」

短いやり取り。

でも、その目はまっすぐだった。

「奈々、幸せそうだな」

「ああ」

それだけで十分だった。

今度は諒が言う。

「お前もな」

颯太は一瞬だけ目を細めて、自然に笑う。

「ああ」

風が吹く。

桜の花びらが、ふわりと舞い上がる。

その時。

芝生で遊んでいた子供たちの声が上がる。

「ねえ、見て!」

奈々の娘が、小さな手を広げる。

その中にあったのは、四つ葉のクローバー。

「すごーい!」

「しあわせになれるやつだ!」

無邪気な声。

大人たちは、少しだけ視線を向ける。

奈々がふっと微笑む。

颯太も同じように目を細める。

それだけで、十分だった。

美空が少し離れたところから颯太を見る。

その視線に気づいて、颯太も目を向ける。

目が合う。

自然に笑う。

それだけで、伝わる。

子供たちの笑い声。

春の風。

やわらかな空気。

あの頃とは違う。

でも、確かに繋がっている。

それぞれの道を選んで、

それぞれの空を生きて、

それでもまた、ここで笑い合える。

それが、きっと——

一番、幸せなことだった。



見上げた空は、どこまでも澄んでいた。

その中に、一本の飛行機雲がまっすぐ伸びていく。