春の日





 授業が終わってホームルームに入ったが、外はまださっきと変わらず天気が良かった。

 窓際の乃々の席には日差しが当たって、乃々は日光ってどうしてこんなに暖かいんだろう不思議と考えた。

 斜め後ろの席から、碧が乃々を見ていたが、背中の乃々はてんで気が付いていなかった。

 やがてホームルームも終わって、下校時間になったので、乃々が鞄を背負って教室のドアから出ようとすると、かく、と首が曲がって、片手で洋服の襟首が掴まれていた。


 「ずっとそっちを見てたのに、帰る時なんで一言言わないの?」


 碧は、首元に手を伸ばした乃々に、咎める様な口調で聞いた。


「一言って?」

「さよならとか、またねとか。色々あるだろ。」


 それから碧はふと声の調子を変えて、乃々に尋ねた。


「乃々、日曜日、何か用事ある?」

「日曜日?」

「映画。見に行こうって誘ってるんだけど。」


 乃々はきょとんとした顔をした。

 
「誰を?」

「乃々を。文脈。それ以外に誰が居るの?。」


 乃々は今度はびっくりした顔で碧を見上げた。


「私で良いの?」

「何言ってんの?。」 

  
 碧はちょっと呆れた様な口調で言った。


「映画。別に変じゃないだろ。2人で行っても。言っとくけど、デートじゃないからね。」

「あ、うん……。」

「新しい映画チケット貰って、男と行くのむさ苦しいから誘ってんの。まったく。変な勘違いしないでよね。」


 それから碧は鞄を背負い直して、ふう、とため息を付くと言った。


「日曜午前中に乃々んち行くから、準備しといて。」

「え……」

「用事あったら僕じゃない方を断る事。良いね?」

「う、うん」

「了解。よし」


 碧はそこで一旦言葉を切ると、わざと乃々の頭の上で軽く手を振った。


「それじゃね。バイ。」

「あ、うん……」


 腑に落ちない顔をしている乃々に、碧は教室を出る前最後ににこっと笑いかけた。