春の日




  
 このクラスでは、給食の時間は机同士を向かい合わせにくっつける。
 そうすると、向かい合った前の人が食べるのを眺める事になる、もちろん話をしながら。
 みんなが給食を全部食べ終わって雑談を始める頃になっても、食べるのが遅い乃々はまだ辛抱強く食事を続けていた。

 その日の給食は、オニオンスープに、チキンとサラダ、それから蜜柑がひとつ。

 やっとオレンジ色の蜜柑に手を伸ばした時、椅子が急に後ろへ斜めに傾いて、乃々は驚いて振り返った。


「乃々。」


 そこに居たのは佐倉碧くん。
 このお話のヒーロー、きれいな顔立ちにトレードマークのさらさらヘアを傾けて。
 碧は乃々の椅子の背もたれに両手で体重を乗せて、真面目な顔で乃々を見下ろしている。


「蜜柑は後。良いもの見せてやる。来な。」

「なに?」

「良いから。」


 食事を中断した乃々は碧の後についていった。

 碧は廊下を抜けて、階段を降りて、また廊下を抜けて、緑の見える中庭まで来ると、ガラス扉を開けて、上履きのまま外に出た。

 中庭の花壇には虹が掛かっていた。
 さっき、雨が上がって、陽が差して来たからだ。


「この間の大雨の時、乃々は見逃しただろ。」


 碧は言いながら乃々を振り返った。


「わあ。」

「綺麗だね。プリズムって言うんだ。虹は7色っていうけど、本当はもっと色んな色があるらしいよ。分光の研究。自由研究に良さそう。」


 乃々が芝地に上履きで突っ立って虹を眺めていると、後ろから、すぐ、碧が袖を引っ張った。


「それだけ。見れて良かったね。乃々は早く蜜柑食べちゃわないと。」


 乃々と碧は掲示物の貼ってある階段をあがって教室へ戻った。